「人と企業の関係性は終わりと始まりがあいまいになる」

従来型のHRマネジメントの仕組みでは、「採用時と退職後の2カ所で分断が起きる」と佐野氏はいう。採用しなかった人と企業とのつながりはそこで途絶える。また退職した人と企業とのつながりも消えてしまう。

「従来の仕組みでは秩序があり、人と企業の関係性に始まりと終わりがハッキリとあるんです。入社したら始まりで退職したら終わりという関係性です。しかし、これも今、アルムナイ(卒業生:ここでは退職者の意)が元の企業に再就職するケースが増えるなど、状況は変わってきています。HRマネジメントは、よりカオティックな『終わりと始まりがないモデル』『終わりと始まりがあいまいなモデル』になっていくだろうと考えています」(佐野氏)

新しいHRマネジメントでは、「今は入社できない採用候補者にも接触し続けて、キープしておく」「退職した人にもいつでも声をかけられるように、キープしておく」ようになると佐野氏はいう。 

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Looperが考えるこれからのHRマネジメントのイメージ 画像提供:Looper

「経済学ではインターナルフローの中の仕組みが対象とする領域を『内部労働市場』、求人メディアなど外部のデータベースが対象とする領域を『外部労働市場』と言いますが、ここに、もうちょっとあいまいな『半内部労働市場』が形成されるであろうというのが、僕の考え方です」(佐野氏)

終身雇用の仕組みが維持できる企業は、それほどドラスティックに制度を変更する必要はないが、事業戦略のステージがいろいろと変わる企業では、企業がタレントの情報を活用して友好な関係を築いていくことが、今後のHRマネジメントの新しい要素になるだろうと佐野氏は予測している。

そうなったときに、重荷を負うことになるのは人事部門だと佐野氏は指摘する。半内部労働市場の部分だけを変えればいいというわけではなく、従来のシステムも維持する必要があるからだ。

「経営コンサルタントのラム・チャラン博士が戦略人事の重要性を説いていますが、これはHRマネジメントの事業戦略へのアジャストには戦略人事の考え方が必要だからです。僕はオペレーションも大事だと思っているので、オペレーション人事を否定するものではありませんが、どうアジャストするかを考えることなく硬直化したHRマネジメントを続けていくのも、無理がある。となると、人事はマネジメントする要素が増えて、大変になるんです」(佐野氏)

採用管理クラウドのTalentioがリリースされたのは2016年、サービスが本格化したのは2017年のことだが、当時は「採用管理ツールすら、あまり一般的ではなかった」(佐野氏)という状況。従来の採用管理システムは終身雇用を前提としたデータベースで、「採用時に入社に至らなかった人の離脱を許容する設計となっていた」という。