孫氏自身が義足ユーザーであり、自ら感じた課題を解決するために起業の道を選んでいる
孫氏自身が義足ユーザーであり、自ら感じた課題を解決するために起業の道を選んでいる

卒業後はソニーに入社し、エンジニアとして勤務する日々。義足を使い始めた当初は松葉杖に比べて両手が自由に使え、生活の自由度も増したと感じていたが、社会人になり徐々に状況が変わっていった。キャンパス内で多くの時間を過ごしていた学生時代と違い、都内のオフィスを往復することが増え、たくさんの階段を登ったり人混みを移動したりする中で義足の課題点を感じるようになったのだ。

エンジニアとして、自分自身でもっと便利な義足を作りたい──。そう考えた孫氏はソニーを退職し、再び東大の大学院に進むことを決断する。

進学先として選んだのは、ヒューマノイドロボットを研究する情報システム工学研究室(JSK)。かつてJSKからスピンアウトする形で設立されたSCHAFT(シャフト)は後にGoogleに買収されたことでも注目を集めたが、これまでに何人もの技術者や起業家を輩出している、この分野では日本有数の研究室だ。

BionicMで開発するロボット義足にも、孫氏がここで学んだ最先端のロボティクス技術が活用されている。研究室時代に作ったものをベースに何度も改良を続けていて、現在の試作品は8代目。昨年3月にはUTECから億単位の資金調達を実施し、体制を強化しながら研究開発に取り組んできた。

現段階で孫氏の感覚的には「8割くらいの完成度」までは仕上がってきているとのこと。ここからさらにブラッシュアップを重ねながら、来年の実用化を目指していく。

「とはいえ残りの2割がとても大変で、ここからが勝負です。人間の足はすごくよくできていて、意識していない状態でもいろいろな動きをしています。安全な義足を作るには、その動きを全て認識した上で、適切に制御しなければいけません。まだまだブラッシュアップが必要です」(孫氏)

研究室時代から何度もブラッシュアップを重ねていて、現在は8代目になる
研究室時代から何度もブラッシュアップを重ねていて、現在は8代目になる

目標は来年の実用化、ゆくゆくは義足以外の領域にも拡張へ

今回の資金調達は実用化に向けてもう一段階ギアを上げるためのものだ。現在は12名ほどのチームで研究開発を進めているが、ここからさらに組織体制を強化し、引き続き製品のブラッシュアップや臨床評価試験に取り組む。

その一環として、BionicMではpopIn代表取締役の程涛氏が社外取締役に就任したことも明かしている。popInは程氏が東京大学情報理工学研究科の修士在学中に立ち上げたスタートアップで、2015年に中国百度の日本法人であるバイドゥと経営統合し子会社となった。2017年より世界初のプロジェクター付きシーリングライト「popIn Aladdin」を手がけるなど、程氏はIoT技術領域やアジア地域のマーケットにも明るいため、その知見を基にパワード義足の開発や販売面での支援を受ける計画だ。