孫氏によると、現在市場に出回っている義足の99%は動力を持たない「受動式義足」と呼ばれるオーソドックスなタイプのもの。自転車に例えるとシンプルなママチャリのようなイメージで、機能面では限りがある反面、他の義足に比べると価格も安く入手しやすい。
一方でBionicMが手がけるようなパワード義足(能動型)は、いわばハイスペックな電動自転車。義足自体が力を出してくれるのでユーザーの負担が少ないのが最大の特徴だ。
「受動式の義足は、人間の足に置き換えると骨と関節の機能しか持っていません。つまり筋肉の機能がないため、ユーザー自身の力で義足を振って動かす必要があります。一方でパワード義足には筋肉の機能が加わることで、義足自体が力を出してユーザーの動作を助けてくれる点が大きな違いです」(孫氏)
BionicMが開発中の義足では歩行時に振り出す動作を後押しすることで、身体への負荷を抑えながら自然に歩けるようにサポート。段差につまずいて膝が折れてしまうような場面でも、その動きを素早く検知して力を出すことでユーザーが転倒しないように支える。椅子から立ち上がる時も、ユーザーは両足に均等に体重をかけながら楽に起立することが可能だ。
孫氏が義足を作るにあたって受動式義足の利用者に課題点をヒアリングをしたところ、「階段昇降における難しさ」「足腰にかかる負担」「転倒への恐怖」がトップ3だった。
たとえば階段を昇り降りする場合、受動式の義足では体重をしっかり支えるのが難しいため完全に健足(義足をしていない方の足)に頼る形になり、健常者のように片足で交互に1段ずつ進むことができないという。常に健足側に負荷がかかるため、長期間使用していると足腰への負担が蓄積し、二次障害に繋がるケースもあるそうだ。
「特に日本では下肢切断者の約7割が60歳以上の高齢者であり、動力を持たない義足を使っても自力では立ち上がれなかったり、移動するのが大変だったりすることから義足を諦めてしまう人もいます。切断の原因は糖尿病などの末梢循環障害が中心のため、今後を見据えても高齢者の方にも使いやすい義足が必要です。自分たちは新しい技術を用いて、そこにイノベーションを起こしていきたいと考えています」(孫氏)
大手3社が7割のシェアを握る寡占市場
既存製品に関して課題感を感じるユーザーも少なくないが、その割に義足市場では大きな変化が起こっていない。孫氏はその一因に「海外の大手企業3社が7割のシェアを握っている寡占市場であること」を挙げる。