競争が進まないことによって、ユーザー視点では価格が高い。シンプルな受動式のものでも数十万円〜100万円ほどの価格帯で、少し高いものでは200〜300万円するものもある。すでに販売されているパワード義足に関しては約1000万円ほど。一部の人しか購入するのが難しい状況だ。

また技術の進歩も遅く、孫氏によると20〜30年前の技術が使われている製品も多いそう。それでも上位の企業は十分に利益が出て、市場からも評価されているので焦って先進的な製品を開発する必要性がないわけだ。

BionicMでは自社で研究開発を進めてきた技術を軸に、現在販売されているパワード義足の3分の1ほどの価格で、より高品質な製品を世に送り出すことを目指している。

現在パワード義足を扱っている大手企業は自社で開発に必要な技術を持っていないため、他社を買収したり、ライセンスフィーを支払ったりすることで対応しているそう。孫氏の話ではその結果として価格が高くなっている可能性もあり、自社でうまく開発できれば低価格化も決して不可能ではないという。

またコスト面だけでなく、機能面でも改善できる余地がある。パワード義足は義足自体が勝手に動くため、ユーザーの意図と違った動きをしてしまうと逆に不安材料になる。

「たとえばユーザーが握手をするために前傾姿勢を取った時に、義足が勝手に歩きたいのだと判断して膝を曲げてしまうことがあります。これでは返って転びやすくて危険。既存製品には安全面で改善の余地があると考えていて、BionicMでは独自のアクチュエーター技術や制御技術、センシング技術などを軸にユーザーがいろいろな動きをしても安心して使える義足を開発しています」(孫氏)

加えて、実際に日常生活で利用するとなるとバッテリーも大きなポイントだ。大きいバッテリーを使うと持ち時間が長くなる一方で、重さやサイズがネックになる。これについても省エネ設計で必要な時に必要なパワーを提供できる仕組みを作り、パワード義足の良さはそのままに、長時間稼働できる状態で実用化したいという。

 

“義足ユーザー”だからこそ見つけた課題で起業

中国で生まれた孫氏は、9歳の時に病気で片足を切断した。当時中国では補助制度などもなく、義足自体も非常に高価なものだったため、それから15年に渡って松葉杖を使った生活を続けてきたという。

学生時代に1年間の交換留学で東北大学に通っていた際に日本での生活に関心を持ったことをきっかけに、中国の大学卒業後に東京大学の大学院に進学。そこで生まれて初めて自分の義足を作った。