脳の血管の幅は1〜2ミリメートル。足の血管から1メートルを超える長さのカテーテルとガイドワイヤーを挿入し、脳まで送り込んで操作を行う。開頭せずに手術を行うため、操作はレントゲン画像を通して行うのだが、部位を立体として把握するために二方向から撮影し、血管造影のある画像とない画像の合計4画面を同時に見ながら、カテーテルを動かしていくことになる。
手元を1ミリ動かせば、1メートル以上先のカテーテルの先端も1ミリ動くという状況で、求められる精度は1ミリ以下。先端を動かすと同時に周辺の管もどうしても少し動くため、たくさんの画像の全体を同時にリアルタイムでチェックしながら、動きを見逃さないよう、3〜4時間集中して手術に当たる。
いつ患者が発症するか分からないというのが脳梗塞などの脳血管疾患であるため、医師は土日でも夜中でも駆けつけて治療を行うことになる。これでどうやって医療事故が起こらないようにしているかと言えば、サポートする医師も含めて3〜4人で手術を行い、メインの術者は先端に集中、ほかの医師が別の箇所を見ていて何かあれば「危ない!」と声をかけるそうだ。手術中はかなり頻繁にこの声かけがあるのが日常だと河野氏はいう。
「つまり人間の注意力に依存している。医療ミスがなく、通常の手術を行っていても、誰にでも事故が起こり得る状況です」(河野氏)
日本脳神経血管内治療学会からもカテーテルの扱いについては注意喚起が出されているが、「危険性を意識し、ガイドワイヤーの先端を常に監視するように」としか言えないのが現状だ。そして「監視しろ」と言われるサポートの医師も、レントゲン画像だけではなく患者の身体の状態をモニタリングするなど、さまざまなことを同時に行っており、「絶対に見落としがない」という状況をつくるのは実際問題、難しい。
この課題をディープラーニングで解決しようとiMed Technologiesが開発を進めているのが、脳血管内手術の支援AIだ。従来のレントゲン撮影機器にAIのプログラムを接続し、映し出される画像を読み込んでカテーテルやガイドワイヤーが血管に当たる状況だとAIが判断すると、音や画面でアラートを出してくれる。人間の最終判断は必要だがAIのサポートによって、より安全な手術が行えるようになる。
「手術支援AIを使うことで、人間の良さとAIの良さを足し算するようなイメージです。人間は1点を集中して見るのは得意です。ですから文字を読む、ということは得意なのですが、『同時に4冊の本を読む』といったことはなかなかできません。それをAIはできてしまう。おおざっぱにではありますが、全体を把握するのが得意です。人間の良さとAIの良さをミックスすれば、もっと安全な手術ができるだろうと考えました」(河野氏)