先日、あるブログを読んでいたら、株式市場はアベノミクスでインフレになるとはやして株高で反応し、債券市場はアベノミクスではインフレにならないとわかっていて冷静に長期金利低下で反応し、為替市場は心理戦の世界なので「アベノミクスは円安材料だ」と人々が信じていると推測して円安に反応したが、いずれかの市場が間違っているのではないかという記事があった。その記事の筆者は、株式市場の参加者はあまり頭がよくないので、間違っているのではないかと言いたげだった。
筆者は3商品をすべて売買したことがあるが、主なキャリアは株式のファンドマネジャーだ。腹を立ててもいいところかもしれないが、若いころに株式運用の世界に入って、「株の世界の連中は、経済のことをこんなに知らないのか!」と同様の感想を持ったことがあるので、気持ちはわかる。
さりとて、株式、債券、為替、いずれの市場の参加者も、基礎学力や気風に違いがあるかもしれないが、市場を見通す力に大きな差があるわけではない。アベノミクスに対する現在までの反応(株高、長期金利低下、円安)については、それぞれが、情報と能力の限界の中でおおむね合理的だと思われる。
先の記事の筆者が見落としていたかもしれないのは為替市場の反応だ。例えば、日本銀行が「インフレ目標を1%から2%にする」と言ったときに、為替ディーラーはどう反応すべきか。まず、この情報から「ゼロ金利がより長く続く確率が高まった」と考えることができる。インフレ率はさまざまな要因で動き予想は難しい。しかし、将来、小さな物価上昇が起こる確率はなにがしかある。この場合に、インフレ目標が1%であるよりも2%であるほうが、ゼロ金利はより長持ちすると予想できる。
すると、円の将来実質金利がごく低位ないしマイナスになる状態の生起確率が、将来のより長い期間に対して高まることになる。実質金利が相対的に低下することはその通貨にとって売り材料だ。
また、何といっても、円の短期金利がゼロで維持される期間の期待値が大きくなるなら、円キャリートレード(円で資金調達して外貨等で運用する取引)が金利上昇を心配せずにできる。
これは、昨年2月に日銀が渋々ながらも1%のインフレ目標を発表したとき、「目標を明示しないのと、1%と言うのとでは意味が違う」と市場が解釈して円安が進んだ機微を学習しているとわかる。