費用はハードウェアの実費と設置・導入のためのコスト、そしてSaaSとしてのランニングコストで、フルカスタム版の現行製品は当然ある程度の金額になる。ただ、大企業の役員会議室で利用されるようなビデオ会議システムではハードウェアだけでも数千万円かかり、会議室の設営からシステム導入まで含めれば1億円ぐらいになることを考えれば、“リーズナブルな”価格帯での提供となるそうだ。
また、現在は空間を会社・チームに合わせてデザインし、2拠点に2人のファシリテーターを派遣するなど、カスタマイズの要素が大きいことから費用が高額になっているが、ゆくゆくは「設置が簡単にできるようにパッケージ化することでコストダウンする予定」と川口氏。さらに、tonariのスペックを満たすハードウェアの価格が、ちょうど指数関数的に下がるタイミングでもある、と説明する。
「7000ルーメンのプロジェクターでも、もう数年すれば同じスペックでコンシューマー価格帯の数十万円レベルになるはずです」(川口氏)
川口氏は「パッケージを開けて壁面に置けば、すぐに動くようなところまで実現できれば」と語る。自宅と実家をつなげておいて、子どもが帰宅したら祖父母が「おかえり」と出迎えるようなシチュエーションを実現したいという。
プロダクト進化への期待と同時に、“空間をつなぐ”ことへの需要自体も今年は大きく変化した。顔を合わせての遠隔コミュニケーションは特別なものではなくなってきている。コロナ禍以前から、東京への通勤者の半数以上は1日往復2時間かけて通勤し、収入の3割を家賃に使っていたし、女性の65%が出産を機に仕事を辞めている状況もあった。
新型コロナウイルスの影響で、2月には導入率26%だったリモートワークが、6月には7割の企業が導入するようになっている。一方で「今のツールでは遠隔コミュニケーションが困難だ」と初めて知った人も増えているだろう。
ポストコロナ時代、オフィスの規模縮小を図る企業や、郊外へ移動した人も現れている。tonariでは、従業員がつながった状態で仕事ができることや出張が不要になること、複数拠点を抱える企業で拠点ごとに管理職を置かなくてもよくなること、採用やトレーニングが遠隔で行えることなど、プロダクトの導入によるバリューは十分に見いだせると考えている。
キャンベル氏は「来年後半には20〜30社ぐらいの顧客にプロダクトを提供したい」と話している。地方と東京の離れた地点にオフィスを構える企業や大学などから、既に問い合わせもあるそうだ。テクノロジーやデザイン、製造業などの大手企業をターゲットに、初めは口コミで裾野を広げていく考えだ。