「非営利で社会課題に向き合う部分と、営利目的で開発するところのバランスを取る上で、どうかかわるのが正しいかについてはチームでも激論になりました」(川口氏)

そして2018年6月、一般社団法人は維持したまま、新たに株式会社を設立することになる。

「ソーシャルベンチャーとしてのtonari(一般社団法人)は、10年、20年といった、より長いタームでのミッションを実現するためのものです。一方、株式会社はSaaS企業として、短期的に利益を上げて事業を発展することを目的としています」(キャンベル氏)

投資家やベンチャーキャピタルからの投資の受け皿、知的財産の管理などは株式会社が担い、教育機関など非営利の分野でtonariをどう使っていくべきかを実証する実験などは、日本財団からの助成金を受ける一般社団法人が担当。tonariでは、2つの法人を両輪として「より大きくインパクトのある事業を育てていく」としている。

「私たちは、ある場所と別の場所にいる多くの人やコミュニティがつながることができる世界を、非常に低遅延のシステムで実現しようとしています。移動をせずに、人々がよりつながった状態を維持できるようにすることは、地球温暖化など、我々世代の大きな課題に向き合うことでもあります。テクノロジーの力で、離れていても“対面”で“空間を共有”すること、社会がつながったままになることをtonariでは目指しています」(キャンベル氏)

ゆくゆくは孫と祖父母のコミュニケーションに使えるような製品に

株式会社が立ち上がったことで、事業をスケールする基盤も得たtonariでは、2019年に複数のエンジェル投資家からの資金調達を実施。また直近のシードラウンドではOne Capitalをリード投資家として、Mistletoe Japan、リバネスキャピタル、ABBALabからも投資を受け、エンジェル・シードラウンドの合計で3.4億円の資金調達を完了した。調達資金については、今後の研究開発とマーケットの拡大に充てるという。

2020年1月からは実証実験として、実際の企業での利用が始まっているtonari。業務上のコミュニケーションのみならず、大阪と東京でスタッフが一緒にランチを楽しむなど「価値を感じてもらえた」という。

現状の製品はフルカスタムの第1世代で「Teslaでいえば、ハイスペックな初期プロトタイプのスポーツカーとして開発されたRoadsterのようなもの」とのこと。ハードウェアとシステムだけでなく、設置する壁面のデザインも含めて、組織になじむように空間設計を行い、使いこなすためのファシリテーションプログラムなどの人のサポートもフルサービスで提供している。