新規事業を立ち上げ、キャッシュフローやビジネスの構造、ユーザー体験について試行錯誤しながらサービスを成長させていく経験は、後々起業をする上でも貴重な財産になった。地図メディアの「スゴイ地図」やフリーペーパーの「R25」、デジタル広告関連のサービスなど複数の事業に携わったが、中でもKaizenの歴史に触れる上で外せないのが「みんなのクリエイティブエージェンシーC-TEAM」だ。
2008年にローンチしたC-TEAMは、当時まだ知られていなかったクラウドソーシングを取り入れたバナー広告の作成サービス。プロアマ問わず一般ユーザーからバナー広告用のクリエイティブを広く募集し、投稿作品の中からウェブサイト上でクリック率の高かったものを多く露出させることで、バナーキャンペーン全体の成果を高められるのが特徴だった。
言わばKaizenが現在手掛ける事業の“前身”に当たるようなこの仕組みは、須藤氏自身がユーザー目線で「こんなサービスがあればいいな」と待ち望んでいたものでもある。
かつてR25に携わっていた頃、ウェブ媒体に出向するバナー広告用のクリエイティブを選定するのは編集長の仕事だった。ただ「正直なぜこのクリエイティブが選ばれたのかよくわからなかった」という須藤氏は、当時4本しか入稿できなかったクリエイティブを100本入稿させて欲しいと媒体側の担当者に打診する。
「実際にやってみないとわからない、そう思って多様なクリエイティブを試してみるとものすごく偏差があったんです。その時に人のクリエイティビティの可能性を感じるとともに、どのクリエイティブの効果が高いのかは(やってみないと)本当にわからないと思いました」(須藤氏)
膨大な数のクリエイティブと比較され、その効果が可視化される。制作部門の担当者からは「そんな仕組みを作られては困る」という声もあがったが、当の須藤氏は「だいたい抵抗勢力が出るものはいいサービスであることが多いという感覚を持っていた」ため、このアイデアを実現すればおもしろいと手応えを感じてていたそうだ。
実際にC-TEAMをリリースしてみると、やはり毎回のように予想を裏切る結果が出た。
「SUUMOのバナー広告を対象に、制作部門のプロと一般ユーザーがのクエリエイティブを競わせたところ、最も成果が良かったのは越谷に住む主婦の方が作ったものでした。その結果を見たときに、改めて本当におもしろいサービスだなと。時には主婦や学生さんが勝って、プロがボコボコに負けたりすることもある。数百社の企業に使っていただきましたが、自分たちの予想はたいてい当たらなかったです」(須藤氏)