「父は周囲から、『お酒を飲まなければいい人なのに』とよく言われていました。妹もアルコール依存症で苦しんでいました。私だけは同じような深みに落ちてはいけないという気持ちが、飲酒のストッパーになっていることは間違いありません」

 また哲也さんは、通院と減酒アプリにも支えられています。

「月1回の通院では、きちんと減酒ができている報告をしなければという義務感があります。先生にいいところを見せたい気持ちもあり、減酒アプリを毎日つけて、結果を見ながらアドバイスをもらっています」

 そのほか、減酒している人のインターネットサイト上の掲示板や体験ブログを読むことにも励まされているそうです。

「ほかの人たちが減酒をがんばっている姿に共感できるし、『自分だけじゃない』とパワーをもらえます。人気のユーチューバーがアルコールの危険性を解説している動画を見て、強烈な危機意識が高まりました。アルコールのマイナス面を客観的に認識できるようになったと思います」

 減酒を始めてから、哲也さんのお酒に対する意識はまったく変わりました。日本では「お酒の席では無礼講」などと言われることがあります。哲也さんも、「お酒をたくさん飲んで少し羽目をはずしてもいい」と思っていたそうです。しかし、飲み過ぎによる数々のトラブルを経験して罪悪感を抱え、体調不良にも悩まされると、「お酒は毒にもなる。心や体にマイナスの面があることを忘れてはいけない」と考えるようになりました。

「大切なのは、お酒のプラス面とマイナス面を理解し、マイナス面に偏らないバランスのよい飲み方をすることだと思っています。また、お酒ばかりに集中せず、それ以外に楽しみを見つけることも必要ですね」

 哲也さんが今、ハマっている楽しみは料理です。ワインへの造詣が深いことを生かして、それに合った料理を作るようになりました。

 飲み物にもちょっとした工夫をしています。お酒を飲みたくなると、ワインビネガーやりんご酢を炭酸水で割った、特性お酢ドリンクを作るのです。哲也さんの場合、お酢ドリンクを飲むと飲酒欲求が減るといいます。