転職は年齢を重ねるにつれ、決断のハードルが高くなるもの。職場のパワハラや長時間労働に悩んでいるなど、明らかに環境を変えた方がいいと分かっているのに、踏み出せずにいませんか? それは、あなたの「内なる声」に意外な問題が潜んでいるからかもしれません。うつ病でも会社を辞められなかった40代男性が、転職に成功するまでの8カ月間でやったことを紹介します。【記事後編】(公認心理師 柳川由美子)
>>記事前編『うつ病でも会社をやめられない40代社員→8カ月後に訪れた「一大転期」とは?』から読む
カウンセリングで気付いた母に対する本音
「会社では人に話しかけるのも、話しかけられるのも大の苦手なんです」と、カウンセリング初回で切り出した40代の男性Aさん。大手企業で技術者として働き、一見すると話し好きで感じが良いのですが、「会社に行くことがとにかく苦痛」「職場でよく緊張してしまう」とのこと。
実はAさんは長年、心療内科に通っていました。適応障害に伴う「うつ」と診断されて薬を服用してきましたが、「このままずっと薬をやめられないのは嫌だ」と、私のクリニックに来られたのです。一時、休職したこともあったそうですが、今はまた忙しい仕事を続けていて、よく眠れない、倦怠(けんたい)感が続く、食欲不振など、適応障害の人に多い症状も出ていました。
経歴や職場での立場を伺う限り、Aさんはとても優秀な人です。しかし、人に褒められても受け入れられないのだと打ち明けてくれました。これまで心理学に関する本もたくさん読まれているAさんは、そうした自分の考え方、感じ方や生きづらさの原因は「自己肯定感の低さ」にあると気付いていました。
そこで、自己肯定感を高めること、人に対する恐怖を取り除くことを目標に、カウンセリングをスタートしました。
Aさんの自己肯定感が低い原因、その1つに「インナーチャイルド」がありました。インナーチャイルドとは、「内なる自分」などと表現される潜在意識のこと。主に子ども時代に傷つけられたり、愛情を受けられなかったりして積み重なった負の感情によるものです。心理学ではそれを癒やすことで、抱えている困難を改善に導くことができると考えられています。
子ども時代を振り返った時、Aさんが真っ先に思い出したのが「母親の面倒くさそうな顔」です。父との関係が悪かった母はイライラしていて、Aさんは常に顔色をうかがっていたといいます。
最近は、「教育虐待」(親が子どもに勉強や習い事を無理強いする、思うような結果が出ないと罵倒するなど)という言葉がよく聞かれるようになりましたが、Aさんの母親はむしろ逆。大学に受かった時も「ああ、そう」と言われただけだった、というから驚きます。