自分で普段からできる2つのワークとは?

 母親のことを考えると、威圧感や圧迫感を感じて苦しくなると話していたAさんでしたが、カウンセリングを通して「自分は母に放っておかれて、本当は寂しかったのだ」と気付きました。インナーチャイルドを癒やす心理療法は、訓練を受けたカウンセラーが行う本格的なものですが、これに併せてAさん自身に普段からできる方法として取り入れてもらったワークが、「スイッシュ」というものです。

【スイッシュの方法】
・苦手な相手の顔を思い浮かべる
・その相手が自分の視野のどの辺りにいるかを感じてみる
・相手のイメージを、息を吐きながらサッと払いのける。「シュッ!」と声に出したり、手で払いのける動作をしたりして、嫌な記憶をより遠くに追いやる
・その人が宇宙に向かって飛んでいき、黒い点となって消えていくところをイメージする

 Aさんが思い浮かべていたのは母親の面倒くさそうな顔。いつも自分の頭の上の方に母親がいると感じていたそうです。他の心理療法と並行してスイッシュを続けて約2カ月。気付いたら、いつも頭の上の方にあった圧迫感がなくなっていた、と報告してくれました。

 カウンセリング開始から約3カ月後、対人関係の恐怖感を取り除くためにAさんに取り入れてもらったのが、同じ空間にいる人に影響を受けたくないときに効果的な「シールド」というワークです。

【シールドの方法】
・自分と相手との間に透明な強化ガラスがあるとイメージする
・「自分はこのガラスに守られているから影響は受けない、大丈夫」と心の中で唱える
・シールドで守られている安全な自分を意識して過ごす

 その後、心理療法として「系統的脱感作法」も行いました。これは、不安を避けることで一時的に安心するのではなく、小さい不安から徐々に慣らして不安への反応を変えることで、大きな不安も克服しようとする考え方です。不安を避けたくなるのはごく自然なことですが、過度な回避を繰り返していると、日常生活に支障を来すこともあります。実際、不安を回避するうちに、行きたいところにも行けなくなったり、楽しめなくなったりしてしまう人はとても多いです。不安は、避ければ避けるほど大きくなるという特徴があるからです。

 Aさんの場合は食堂、エレベーターの中といった不安を感じる場面を挙げてもらい、不安を感じる度合いが低いものから順にイメージして慣らしていきました。

 他にもいくつかの心理療法を行い、カウンセリングの開始から約8カ月後――。Aさんは、「エレベーターで会った顔見知り程度の社員と話ができました」「社員食堂で隣に座った人に話しかけられても、緊張せずに話せるようになったんです」とうれしそうに話すではありませんか。

 さらに、「昔は人と話すのが好きだったのを思い出しました。本当の僕は人見知りではないのかもしれませんね」と言ったのが印象的でした。私から見ても、初めてお会いした時とは明らかに言動が変わりました。

 私のカウンセリングでは初めに期間と回数を決めてスタートし、延長するかどうかは相談者さんに決めてもらっています。Aさんはあと1回分カウンセリングが残っていたのですが、自ら「卒業します」と宣言。「では、残り1回分は半年後に行いましょう」と約束して、いったん終了となりました。