先週から、講演のため中国に来ている。今回の講演の主催先は、長江商学院だ。知る人ぞ知るという長江商学院だが、香港長江グループを率いる大財閥・李嘉誠が設立した李嘉誠基金会の出資によるビジネススクールとして2002年に北京で開学したものだ。同学院の紹介によれば、これまで同学院を巣立ったビジネスリーダーが5000人を越え、中国における良質のビジネスネットワークを持っている、という。
中国にいる日本人ビジネスマンはもちろんのこと、より多くの日本人にその存在を知ってもらうために、日本人が大勢暮らしている北京と上海での私の講演会が企画されたのだ。お陰で、2年半ぶりの北京訪問を実現でき、SNSで交流しているが、まだ会ったことのない網友(ネットユーザー)や粉糸(フォロワー)とも会えた。
「精衛填海」という
中国のことわざ
新年が明けてから、私が書いた最初のコラム原稿に「精衛填海」という中国のことわざが使われている。この精衛という鳥はせっせと小枝を口に銜(くわ)えて海に飛んでいき、そこでこの小枝を落とす。こうした作業で人々の交流を隔絶させる海を埋めようとしているのだ。
無駄な行いだと世間の人々に思われるかもしれないが、私はその精衛という鳥に強い仲間意識を覚えている。中日交流に携わる多くの人も精神的に隔絶する海を絶対、中日間に作らないために、無駄としか見えないような小枝落としの作業を続けている。精衛になることは、この時代に生きる中日関係者の宿命でもある。
このコラムは長江商学院の関係者の目に止まり、それが今回の講演企画につながった。講演の中では、私は、中日関係はまるで国交正常化実現前の状態に逆戻りしてしまったような厳しさを見せているが、個人としては、私はそんなには驚きを覚えていない。なぜなら1998年の時点から、すでに中日両国はこれからの20年間はよくならないと予測しているからだ、と述べた。