2024年実施の米大統領選挙。バイデンvsトランプの第2ラウンドになるか。特集『総予測2024』の本稿では、16年のトランプ氏当選を「一般市民の怒りの評決」と論じた、米ハーバード大学教授、マイケル・サンデル氏を直撃した。(国際ジャーナリスト 大野和基)
トランプ氏が付け込んだ
労働者階級が持つ「屈辱」の気持ち
――2024年には米国大統領選挙があります。あなたは16年の大統領選におけるドナルド・トランプ氏の当選を、グローバリゼーションに対する一般市民の怒りの評決だった、と言います。
新自由主義は経済効率の名の下にグローバリゼーションを推進し、低賃金国に雇用をアウトソーシングし、それが格差をさらに拡大させるというマイナスの影響を生じさせました。
この40~50年間で拡大した格差問題に関して、民主党も共和党も、不平等を生み出した政策を見直そうとはしませんでした。その代わりに、労働者階級の人々に、大学の学位を取得して自分自身を向上させるように奨励しました。「努力すれば成功できる」と伝えたのです。この傾向は米国だけではなく、他の多くの国でも見られます。つまり個人の上昇志向が格差の解決になる、という考えです。
でもこれには、暗黙の侮辱が含まれています。もし、あなたが現実において苦労していて、大学の学位を持っていないのであれば、それは政策立案者のせいではなく、あなたの責任なのだ、ということです。「大学の学位を取らない限りあなたの仕事は、社会から評価されたり、敬意を払われたりしません」というメッセージであり、この暗黙の侮辱は多くの労働者を疎外しました。高学歴の人に軽蔑されているという屈辱の気持ちにうまく付け込んで、16年に大統領になったのがトランプ氏です。
――トランプ氏は労働者の気持ちに何が起きているか分かっていたということですね。
そうです。トランプ氏は労働者が感じていた深い怒りや屈辱を察していました。ある予備選挙でトランプ氏は「私は学歴の低い人たちが大好きだ」と言ったほどです。それは、大学の学位がない人はトランプ氏に票を入れたということです。
トランプ氏は、拙著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)で私が分析しようとしていた、大学の学位がない労働者階級に対して、教育レベルの高い人が抱いている偏見をすでに理解していたのです。
拙著でその指摘をしてから3年がたちますが、現在では、ある程度の改善が見られます。
次ページでは、米大統領選を占う労働者階級の動向や、トランプ氏を迎え撃つバイデン大統領の対抗策、そしてウクライナ戦争が露呈した“教訓”について、サンデル氏が大分析する。