ロケハン、お弁当の手配、技術関連の仕込み……また今では考えられないが、タレントさんのキャスティングまでもやった。
でも、社会人経験なんてないままADになっているわけだ。丁寧な電話のかけ方とか、業界の礼儀なんてわかるはずもない。
無知も無知だし無鉄砲。
なんの礼儀も常識もない田舎出身の若者。
そんな救いようもない、ADの俺を育ててくれたのがムネ(宗実隆夫)さんだった。
「元気が出るテレビ」にフリーのディレクターとして関わっていたムネさんは、尖っていて扱いにくかったADの俺に編集と演出のすべてを注ぎ込んでくれた。
ちなみに、俺の名前がマッコイ斉藤だから、「元気が出るテレビ」の総合演出であるテリー伊藤さんに憧れていると思われがちだが、まったく違う。
俺が唯一、尊敬し、憧れ、感謝している先輩ディレクターはムネさんだけだ。
今、ムネさんはソフト・オン・デマンドで監督をしている。
間を入れずにしゃべりだけを
つなぐ今どきの編集……面白いか?
当時30代後半くらいだったムネさんは、俺みたいなバカを扱う天才だった。
怒鳴るでも、命令するでもない。仕事をまかせて、責任感を持たせて、動かしてしまう。
ロケの準備にしても、「当日までにこれを全部仕込んでおいて」と俺にリストを渡し、あとはなんにも言わない。押し付けられるのではなく、託されるから、こっちもその信頼に応えようと自分の力で考える。それだけ仕事も覚えようとする。
また、イチから勉強させてもらったのが編集技術。
特にフリをしっかり作ること、間を取ることの大事さを教わった。
今はテレビのバラエティ番組でもYouTube でも、「ジェット編集」が全盛だろう。
つまんで、つまんで、なるべく間を入れず、ドドドッとしゃべりだけをつなぐ編集がウケる、とされている。
でも、人間のやりとりの面白さって違うと思う。
誰かが「うるせえ、このバカ」と言う。すると言われた相手は、イラッとするまでにちょっと間がある。沈黙の後に「……殺すぞ、おまえ」と返す。だから、面白い。臨場感とヒリヒリ感が見ている人に伝わる。感情の強弱が、笑いを生むわけだ。