自分の編集に自信がなく、我ながらひどいと思うときもあった。それでもムネさんは「なんだこれ」とか「全然ダメだな」みたいなことは絶対に言わない。
さーっと見て、「ああ、はいはい」「もうちょいかな」とつぶやくと、元のVTRを引っ張り出し、俺の作った「荒1」を見ながら、俺の目の前で再編集していく。
すると、まるで違う印象の「荒2」ができあがり、それを編集機でがちゃがちゃと本編に仕上げると、同じ素材を使っているはずの俺のVTRとは別物のVTRができあがった。
俺からしたら魔法だった。
ムネさんの仕上げたVTRのなにがすごいのか。「元気が出るテレビ」の本番収録で流れたらわかる。スタジオのたけしさんたちが大爆笑するのだ。
それを見ていた俺は、尊敬と嫉妬の気持ちを半々に抱いた。俺も爆笑を取りたかったから、ムネさんのやり方を必死に覚え、見よう見まねで手を動かした。そして「荒2」ができるたびに、ムネさんに見せ、ムネさんは「ああ、はいはい」「もうちょいかな」とつぶやきながら、手直しをしてくれた。
そんなことのくり返し。なかなか進歩はなく、地味な努力が続いた。それでも絶対にムネさんみたいに、たけしさんに爆笑してもらえるようなVTRを作りたくて、数え切れないほど徹夜をして、無限に思えるほどの時間を編集作業に費やした。
実際は、1年くらい経った頃だろうか。
俺の編集した「荒2」を見て、ムネさんはふと言った。
「うん、いいんじゃねぇか、これで」
このひと言を聞いて、俺は崩れそうになった。
初めて一人前として認められた瞬間だった。師匠が一人の弟子を育て上げた瞬間でもあった。
その日以来、少しずつムネさんの手直しが減っていき、やがて俺が本編まで仕上げたVTRが、本番収録で流されるようになる。
スタジオでウケると、プロデューサーが「さすがムネさん、面白いね」と言ってくる。「ありがとうございます。ウケてよかったですね」と答えるムネさんを見て、弟子の俺としてもうれしかった。
しかしムネさんは思わぬことを言った。
「このVTR、俺が編集したんじゃないんですよ。誠がやったんです」