「当時ランニングに興味はないどころか、むしろ走るのは嫌いでした。でも、Onはランニングに真剣に向き合うブランド。ど素人が手探りで始めるときには自分で体験しないと、売れないだろうなと思いました」(駒田氏)

 当時マーケティングの予算もほとんどなかったため、自らがOnのシューズで走ってみて効果を伝える方法を取ろうと、駒田氏は全くの初心者からランナーになることを決意した。
 
 それから、全国のトライアスロンやマラソン大会に出場するようになり、駒田氏はランニング仲間やOnのユーザーを増やすため、地道な草の根活動を続けた。これが功を奏して、日本法人を2015年に設立してから現在までの5年間で、売り上げは10倍にまで成長。今では世界中にある支社の中でも、日本の売り上げがトップ5に入るほど広まった。

3日で16足しか売れない経験

「Onを日本に持ち込んだ当初は、全く売れませんでした。2013年に東京マラソンEXPOでブースを出しましたが、3日で16足しか売れなくて……(苦笑)。チラシを配ったり、足を止めてくれた人にフェイスブックで繋がらせてほしいと頼んだり、必死だったんですけどね」(駒田氏)

スイス発シューズブランド、10倍成長の原動力は「地道なファンづくり」駒田氏 Photo by N.H.

 駒田氏は当初、「この場限りで終わってしまったら声は届かない」という直感的な怖さに駆られ、売り込みに必死だったと振り返る。

 その後、2013年の全日本トライアスロン宮古島大会でブースを出した。その頃から、アスリート達が購入してくれるようになった。

「この時くらいから、口で説明して売ろうとするのをやめたんです。喋らずに、まず履いてもらうようにしました。『履いたら楽しいので是非』とか『足、何センチなんですか』とか聞くと、意外と皆さんすぐ履いてくれるんですよね。しかも、Onのシューズは機能性が高いので、一度履いてもらえれば、魅力に気付いてもらえるんです」(駒田氏)

 このレースの後に駒田氏は、Onを履いて出場してくれたある選手から「トライアスロンをやってみたらどうか?」と声を掛けられた。Onに携わるようになってランはやっていたものの、トライアスロンは未経験だった駒田氏。1年後の宮古島トライアスロンに挑戦することになった。

 そして2014年、駒田氏は実際にトライアスロンへ出場し、13時間半ものレースを見事完走した。これが結果として、今のオン・ジャパンのもつ“ファンを巻き込む力”の礎になった。

「レース自体は本当に苦しかったんですが(笑)、ランやトライアスロン界隈の人達が『走るのが嫌いな人が、宮古島トライアスロン出るらしいぞ』と興味をもってくれたのがうれしくて。走り終えて、参加者の皆さんと話してみると以前より格段に距離が近くなった感じがして、この時『Onはもっと広がっていくだろう』と確信しました」(駒田氏)