オン・ジャパン設立のきっかけ
ファンを巻き込むことで、徐々に売り上げを伸ばしてきたOn。だが2014年、駒田氏のいた商社との契約が解除されてしまった。駒田氏が培ってきたファンベースのマーケティングは、どうしても短期視点で見ると、どれほど売り上げに貢献するのか見えにくかったのだ。
「(契約解除と聞いて)真っ先にファンの顔を思い浮かべました。すでに仕事との境目がなくなるくらい思い入れが強くなってしまっていました。これはある意味で、顔の見えるマーケティングの怖いところかもしれません。確かに(売り上げを)KPI化するのは難しいのですが、ちょうど友達から友達にどんどん広がっている感覚があったんです」(駒田氏)
当時はまだ、ファンマーケティングといった言葉は広がっていなかったが、駒田氏は「上から落とすメッセージではなく、水平に伝えていくメッセージの方が自然に広がっていく可能性がある」という直感だけはあった。
そして「このまま諦めたくない」という思いが強くなった駒田氏は、Onの創業者たちと協議を重ねる。最終的に2015年5月、オン・ジャパンを立ち上げることとなった。
Onが作り出した“ファンベース”思想
駒田氏の作り上げてきたファンマーケティングは、ユーザーとの距離がとにかく近い。日本でOnを愛用するランナーはこぞって「#OnFriends」を付けてSNSに投稿したり、駒田氏に直接新作シューズの履き心地についてフィードバックが返ってきたりすることもあるほどだ。
「オフラインでの繋がりがないコミュニティマーケティングに、効果はありません。人間関係を築くのはとても時間のかかることですが、近道もありません。地道に、ファンとのふれあいを一番に考えていくことに限ります。私としては、Onを履いて楽しめる人はみんな仲間だという思いがあるので、エンドユーザーやメーカーなどの境目も失くしたいくらいです」(駒田氏)
本社から見てもオン・ジャパンのファンマーケティングの動きは特殊で、「日本はコミュニティに対する気持ちが強い」と驚かれるという。
ブランドを作るには「3要素」が必要
駒田氏は、強いブランドを作るには3要素を守る必要があると主張する。1つ目は「機能」、2つ目が「デザイン」、そして3つ目が「ブランド(人格)」だ。
「要素を意識する順番も重要なんです。いきなり、デザインやブランドに飛びついてしまい、機能性が揺らいでしまっては失敗します。物としての良さがないと、いくらデザインが良くても空振りするので、デザインに集中しすぎて機能を忘れないようにしなければなりません」(駒田氏)