「(ユーザーが拡大した)一番の理由は『市場の選択』。僕らがやっているのは、書類を手書きして、紙にハンコをついて、役所に持っていくような領域です。普遍的かつ、みんながやっている業務です。よく比較して説明するのですが、会計や給与計算などの業務は何年も前から業務ソフトがあり、それが最近クラウド化してより便利になりました。それに対して僕らの領域は(業務ソフトすら)なかったところ。だからこそ何倍も便利さを感じていただいていると思います。もちろん競合よりいい製品を作り、大胆なマーケティングをしてこそ(の評価)ですが」(宮田氏)

創業期のTwilioやbox、Shopifyと並ぶARRの成長スピード Photo by Y.I創業期のTwilioやbox、Shopifyと並ぶARRの成長スピード Photo by Y.I.
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 また今回、2社の米国VC(1社は非公開)がSmartHRへ出資している。サービスの継続率や成長速度が評価され、2度ほどの面談で調達が決まったという。海外ではSaaS企業の上場が増加しており、レイターステージ(上場前の資金調達ステージ)でも大規模な資金調達を実現しているが、日本国内ではそういった実績はまだ少ない。宮田氏は今回の調達を契機に、日本のスタートアップが海外VCから調達するという事例を増やしたいとも語った。

 ただし、上場に向けた具体的なスケジュールについては明らかにしておらず、7月22日に開催した会見でも、「企業が継続的に成長するための重要な手段。価値を最大化できる時期を見る」(SmartHR CFOの玉木諒氏)と語るにとどまっている。

“SaaSの公式”をもとにマーケティングに資金を投下

 SmartHRでは、今回調達した資金をもとにして人材とマーケティングを強化する。人材については、現在の130人から300人程度まで拡大する予定だ。マーケティングについては、すでに展開しているウェブ広告や展示会、テレビCMなどを組み合わせていく。

「これまでは顕在化しているお客さんを対象にしていましたが、潜在層にもアプローチしていきます。いまだに紙、ハンコ、手書き、役所に持っていく、という世界。サービスを知ってもらえば、導入が決まる状況です」

「広告については、SaaSビジネスの公式として『LTV/CAC>3』というものがあります。つまりLTV(Life Time Value:顧客1社が取引開始から終了までにもたらす利益)をCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)で割った数字が3より多ければ健全であるという考えです。その限りには積極的にやっていきます」(宮田氏)

 宮田氏はSaaSビジネスが「先に損をして、あとで得をする」というモデルだと説明する。顧客獲得のためのコストは1年間のサービス利用料以上になっても、サービスを長い年月使ってもらうことで回収していくということだ。宮田氏は起業前のサラリーマン経験を例に出して、「取れそうな顧客からは取れ、と考えるビジネスは少なくない。だがSaaSビジネスは最初にサービスを売るタイミングでは提供企業が損をしても、製品がよくなれば顧客がつく、継続してくれる健全なビジネス」だと主張する。