問題2:従業員が引き起こすAIに起因する問題多発
人工知能(AI)の進化は、多くの分野で革命を起こしつつある。これまでは、話題先行であったが、今年からはいよいよ本格的に使用が始まる。それに伴って、企業はさまざまな新しい問題に直面することになるだろう。
たとえば、フェイク画像は、AI技術を使って現実には存在しない人物や出来事を非常にリアルに作り出す。偽造された画像は、一般的には政治的なプロパガンダ、詐欺、個人の名誉毀損など不正行為に利用される。
この際、対象が政府要人や芸能人だけと考えるのは正しくない。精巧に作られた社長の偽のハラスメント動画や取引先への侮辱発言などがSNSで拡散され、会社の評判が下がることは十分にあり得る。また、オンライン上で社員の名をかたる者に偽情報を拡散されることもあるだろう(同様に、そのような問題行為を従業員がしてしまう可能性もある)。
このような意図的な問題行為だけでなく、生成AIに会社の秘密情報を打ち込んでしまったり、生成AIの明らかに間違った情報やバイアスのかかった不公平な情報を検証することなく社員がそのまま使ったりして大問題になるといったことは、どこの会社でも必ず起こる。
これらの新しいツールに由来する問題に対処するためには、AI技術の開発者や利用者はもちろん、従業員全員が高いAI倫理とメディアリテラシーを身に付ける必要がある。
そのためにはいたずらにAI技術を敬遠するのではなく、起こり得る問題を熟知した上で、政府や国際機関の作成した規制やガイドラインをしっかりと学習し、適切な利用を促進することが必要となる。
問題3:労働の「聖域」の消滅
現代の労働環境に対する社会的なコンセンサスは、過去の慣習や伝統的な価値観を超え、新たな段階に入っている。これまでは、スポーツ界や芸術分野、そしていくつかの古い業界では、過酷な労働条件やハラスメント的な言動もある種の「聖域」としてしばしば見過ごされてきた。しかし、2024年現在では、これらの領域においても、一般社会と同様に、公平で健全な労働環境の確立が強く求められるようになっている。
スポーツ界でも、選手の健康と福祉が優先されるべきであり、過度なトレーニングや不適切な管理による精神的・身体的な損害に対する意識が高まっている。芸術分野でも、創造的な仕事に従事する人々の権利と労働条件に対する関心が増しており、公平な報酬と過剰労働に対する配慮が求められるようになっている。
また、古く遅れていると考えられていた業界においても、長時間労働や不安定な雇用形態に対する批判が強まり、労働者の権利保護や安全な職場環境の確保が重要視されている。これは、グローバル化とデジタル化が進む中で、従業員の幸福と生産性の向上が企業の競争力に直結するという認識に基づいている。
この“聖域の消滅”は、今後、ベンチャー企業やコンサルティングファーム、医療関係者や個人事業主など裁量労働が基本である職種にも及ぶことになるだろう。ベンチャー企業にのみ長時間労働が認められていては、大企業はそのスピード感に太刀打ちできないからである(ここでは、この政策の妥当性についての議論は行わない)。
今後、労働市場全体で、従業員の権利と福祉を尊重する文化がより一層強化されることが予想される。企業は、持続可能な成長を遂げるために、従業員の満足度を高め、健全な労働環境を提供することが不可欠であるとの認識を深めていく必要がある。
それには、透明性の高い経営、労働者の声を聞く姿勢、そして絶えず改善を目指す企業文化が求められる。