問題4:“パンクする管理職”の増大
現代のビジネス環境では、管理職の役割が以前にも増して複雑化し、負担が大きくなっている。業務改革の進展により、管理職は従来の業務に加えて新しいプロセスや方法を取り入れる必要があるからだ。
これには、デジタル化の推進や市場の変化への適応など、これまでとは異なるスキルや知識、リスキリングが求められており、このような変化に迅速に対応することは、管理職にとって大きな挑戦である。
さらに、従業員一人ひとりへのサポートも管理職の重要な役割となっている。従業員のキャリア発展やメンタルヘルスのサポートは、チームの生産性と満足度を高めるために欠かせない要素だからだ。ただし、個々の従業員に対するきめ細かいサポートは、膨大な時間と多大なエネルギーを管理職から奪い、管理職を消耗させる。
また、ハラスメント防止や組織内の調和を保つための努力も必要となっている。多様なバックグラウンドを持つ従業員が共存する職場では、対人関係の摩擦が生じやすいため、管理職は緊張や争いの解消に常に留意する必要がある。四六時中、八方に気を配らなければならず、精神的な負荷は甚大だ。
コンプライアンスの順守や法規制の変化に常に注意を払うことも、管理職の責任であり、失敗は許されない状況である。違法行為や不正を防ぐための対策や教育は、組織のリスク管理において重要な役割を果たすから、これらの業務は複雑で時間を要する。
これらの責任を全て担うことは、管理職にとって非常に負担が大きく、その割には「できて当たり前」で感謝もされないし、報酬も大きくは増えないから、管理職の役割を望まない人が増えているのは当然のことといえよう。すでに管理職の業務は疲労困憊(こんぱい)を余儀なくされるものでしかなくなっている。
企業はこの問題に対処し、管理職のサポートと業務の合理化を図らなければ、やはり冒頭にも書いた人手不足を促進させることになるだろう。
問題5:地政学・宗教問題への巻き込まれ
現代のグローバル化したビジネス環境において、企業は地政学的な紛争や宗教的な対立といった国際的な問題に対応することが不可欠になっている。
大企業は世界中に拠点を持ち、さまざまな文化や政治的背景を持つ地域で事業を展開している。ウクライナとロシアの戦争やガザ地区の紛争など、これまでなら対岸の火事と傍観していられた出来事が企業の運営に直接的または間接的に影響を与えるようになっている。
現在では、このような紛争によって、グループ会社の従業員が直接影響を受けたり、取引先企業が問題に巻き込まれたりすることも珍しくない。従業員が誘拐されたり、政府に拘束されたりするようなことも増加している。
これによって、企業は外交政策、安全保障、人権問題など、従来は政府や国際機関が扱っていたような複雑な課題に対処する必要に迫られている。
特に、今後、台湾海峡などでの東アジアの緊張が高まれば、企業が直面する課題はさらに難しくなる可能性がある。サプライチェーンの確保、従業員の安全確保など、これらの地域の政治的・経済的な動向は、ビジネスのリスク管理や戦略計画に大きな影響を及ぼすため、企業はこれらの状況に敏感でなければならない。
日本企業はこのような国際的な問題への対応にあまり慣れておらず、新たな知見と対応能力獲得のためのネットワークが必要となる。これには、事前のリスク分析、適切な危機管理計画の策定、さらには国際法や地域の文化、政治的感受性への理解を深めることなどが含まれる。企業は、地域の状況を精緻に分析し、その地域での事業運営や従業員の安全を確保するための戦略を立てる必要が急速に高まっているのである。
さて、これら5つのトレンドは、いずれも企業の組織運営に与える影響が大きい。なかでも人手不足対応とデジタル技術の利用は組織運営そのものを大きく変えるインパクトを秘めており、これらへ適切に対応できるかどうかが会社の将来を決めるだろう。