事前準備からの変更はNG、非常に厳しく審査される

 フランス、パリのジョエル・ロブションで勤務していた頃、ロブション氏から大事なイベント時はニンニクの1かけらをポケットに忍ばせることを聞いていた。ここぞというとき、守り神ではないが尊敬する同氏にならい同じことをしてみた。

 最終審査はパリを離れ、フランス南東部のグルノーブル(1968年冬季オリンピック開催地で、記録映画『白い恋人たち』でも有名)で行われた。最終審査に残ったのは約30人。前回、2019年の最終実技はメインもデザートも大皿料理だった。過去には大皿料理の実技が多く、一塊で火を入れるので難しさが伴う。現在、多くのフレンチレストランでは一皿ずつゲストに提供するので、関谷氏としては、大皿料理よりも、皿盛りの方が慣れている。

 最終審査では、料理を提出する時間も決められている。開始から4時間後に前菜2品を、4時間半後にメイン1品を、5時間後にデセールを提供しなければならない。それぞれ8皿、全部で32皿を5時間以内で作る。

 2次審査以降は自分で食材を用意するのだが、この食材のコントロールが非常に厳しい。自分が使用したい食材や調味料を、事前に分量とともにリストアップして提出し、それを当日チェックされる。後から思い直して追加することは一切できない。グラム単位で計測され、不正がないことを厳しく見られる。例えば、バットが重ねてあると、1枚ずつ裏表や隙間に何かないかと確認された。こしょうをひくミルでさえ、分解して中をチェックしていたほど。それくらい、厳格な審査があるのだ。

 審査基準の中には、「食材ロスを出さない」という項目もあった。グルノーブルの名産品である、くるみも指定食材に含まれていた。最終審査では1.2kgの鹿肉を用意したが、その重さを少しでもオーバーしていたら減点される。中には、「5個までしか持ち込めない」と書かれた食材もあり、それ以上の数を持ち込むと没収、減点されるはずだ。

 最終審査は2日間に分かれ1日ずつ行われる。参加者は2日目の夕方にはホテルに戻り待機。その間も、審査員による協議が行われていた。審査員は約50人。審査員の半分は試食、半分は調理場での審査だった。

 その後、会場に再び集合。その場で、関谷氏を含む8人が受章者として名前を読み上げられた。

2022年の大会で、料理部門で『M.O.F.』の称号得た8名。一番右が関谷健一朗氏(写真:フォーシーズ)2022年大会で、料理部門で『M.O.F.』の称号を得た8人。一番右が関谷健一朗氏(写真提供:フォーシーズ)

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