「自宅謹慎」と「出勤停止」は
どう違う?

 夕方、B社長は訪ねてきたE社労士に、C主任とDの件を説明し、明日から1週間自宅謹慎させること、そしてその考えにA課長が反対していることも付け加えた。

「うちは物を販売している会社ですから、その中心である営業社員には、会社の顔としての自覚を持って行動してもらわないといけません。今回のけんかは会社のイメージを落とす行為なので、2人にはしばらく仕事を離れて反省してほしいんです」

「おっしゃることはよく分かりました。ところで、B社長の言う『自宅謹慎』とは、就業規則の懲戒規定にある『出勤停止』の扱いと同じような意味でお考えですか?」
「そうです。それとも『自宅謹慎』と『出勤停止』は意味が違うんですか?」

<出勤停止>
〇 出勤停止とは、会社が従業員に対して、一定期間出勤を禁止する扱いをいう。
〇 出勤停止には2つの考え方があり、「懲戒処分としての出勤停止」と「業務命令としての出勤停止」に分けられる。
(1)懲戒処分としての出勤停止は、服務規律に違反した従業員への制裁として行うもので、出勤停止期間中の賃金は通常支給されない。
懲戒処分として出勤停止を行う場合は、下記の要件を満たさなければならない。
(ア)就業規則に懲戒の種類として出勤停止があり、なおかつ懲戒事由の定めがあること。
(イ)出勤停止の処分理由が合理的であり、社会通念上認められること。
(ウ)処分をする際に、定められた手続きを踏んでいること。
(2)合理的かつ相応な理由があれば、業務命令としての出勤停止を命ずることができる。この場合、懲戒処分による出勤停止とは違い、就業規則の定めは要さない。

業務命令による出勤停止に該当する事例
(ア)懲戒処分の可否について、調査、審議決定までの間出勤を禁止する場合
(イ)従業員が伝染病に罹患した、ハラスメントの被害者になり加害者から隔離する必要があるなどの理由で、出社させるのは不適当と認める場合
業務命令で出勤停止をさせた場合、懲戒処分ではないので原則賃金を支払う義務が生じる。
<自宅謹慎・自宅待機を命じることができるか?>
〇 自宅謹慎は、従業員の出勤を禁じ、更に自宅からの外出を禁止することであり、一般的に懲戒処分の出勤停止と同義の意味で使われることが多い。
〇 しかし出勤停止処分の意味は、あくまでも会社への出勤を停止することであり、自宅からの外出を制限することではない。
〇 企業が出勤停止処分中の従業員に自宅謹慎を命じることは、憲法18条違反により認められないとされる。
参考:憲法18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。(以下、略)
〇 業務命令により出勤停止を命じ自宅待機させる場合は、賃金が発生するため、合理的かつ相当な理由があれば認められる。