「答える教育」から「問う教育」へ
大切にすべき3つの対話
鈴木 私も問答はすごく大事だと思っていて、日本は、「答える教育」ばかりしてきたんです。でも答えのある問題は、AIがほとんど答えられる。これからは「問う教育」をしなければいけない。問答をひたすら続ける。私もこれまでやってきましたし、これからもっと広げていかないといけないと思っています。
田原 AIの弱点は、お互いの経験や文脈に基づいた対話ができないということ。
鈴木 それこそ西田幾多郎が「純粋経験」「行為的直観」「歴史的身体」と表現しています。
結局、記号や言葉になったものは、すべてAIでアーカイブすることができます。でも、言葉にならない純粋経験や直観(※)は、AIが取って代わることはできないですよね。
※同音語の「直感」は感覚的に物事を瞬時にとらえることであるが、それに対して「直観」は推論を用いず直接に対象をとらえ、瞬時にその全体や本質をとらえる哲学用語として用いる(三省堂『大辞林』 第三版より)
純粋経験、これは一次情報ということかもしれませんが、この純粋経験を増やし、「論理的・知識的にはこっちかもしれないけれど、直観ではあっちかな」という直観を磨く。そういうことがあらためて大事になってくるんだと思います。
田原 一次情報というのは、リアリティが伴いますね。
鈴木 そうですね。あとは身体性も大事ですね。AIには身体がないので、自身の身体がどう感じるかということには、つねに意識を傾けていなければなりません。理性というのは結局、頭だけで考えてしまいますからね。
例えば、海へ行ったとします。寒そうだったけれど思ったより暖かいと感じた。魚を自分で釣ってみたり、自分でさばいて食べてみたりする。それを皆で食べて、そのときに舌がどう感じるのか。私たちのゼミは、ヨットに乗って釣りをするなど、こうしたことも全部やるんですよ(笑)。体験するにも身体がないとできません。
田原 体験というのは一番大事ですよ。今ね、情報がだんだん過剰になっているので、皆、体験しなくなってきている。情報で忙しくて、SNSを見て満足してしまう。でもそれだと、そこは寒いのか暑いのかもわからないし、匂いも味もわからない。聞いただけでわかった気になってしまう。たとえそれが間違えていても。
鈴木 福沢諭吉はやはりおもしろいことを言っていて、人間であることの分として、「身体」「知恵」「欲」「良心」と「意思」を挙げているんですね。
AIには「身体」はありませんし、知識はあるけれど「知恵」はありません。そしてこれが福沢らしいのですが、人間には「欲」がある。AIには「欲」も「良心」も「意思」もない。この5つがあるのが人間だと言っています。
田原 欲は良い意味にも悪い意味にも捉えられる。つまりは「意欲」ですよね。人間は意欲があるから迷うわけだ。AIには意欲がない。
鈴木 そうなんです。
田原 どうやって若い人たちに良い意欲を持たせてあげられるか、ですね。
鈴木 やはり、意欲を持って楽しく好きなことに向かって生きている先輩たちに会うということは大事です。
それから、やはり対話ですね。人との対話、自然との対話。そして、100年前、200年前、何百年前の先人たちとの対話。この3つの対話が大事だと思って、私はずっとやってきています。
田原 これからもぜひがんばってください。