コロナ禍で介護提供者の負担が増加
マインドヘルスに必要なこととは?

 新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界的にマインドヘルスの問題がより深刻化していると考えています。当社は健康の中でも、特にマインドヘルスに関する問題にフォーカスしており、ここ2年ほどスタディーを行ったり、具体的なアクションに対する投資を行ったりしてきました。

「不十分」な中小企業のマインドヘルス対策をどう解決する?保険大手のグローバル人事トップが警鐘Photo by Tsuruta Takahiro
カリマ・シルヴェント(Karima Silvent)/アクサグループ最高人事責任者、マネジメントコミッティメンバー。1997年、フランス雇用・保健省に入省。2002年、フランス国営医療サービスに人事部次長として入社。07年、民間医療グループのKorianに移り、11年フランス事業部門のCOOに就任。12年4月アクサに入社。13年9月、グローバルHRディレクターに就任。16年7月、アクサフランスの人事部門のディレクター兼エグゼクティブコミッティのメンバーに就任。17年12月、アクサグループ最高人事責任者に就任。パリ政治学院(IEP、95年卒業)を経て国立行政学院(ENA)を卒業

 日本においては、商工会議所や自治体、全国健康保険協会の支部などさまざまな組織と連携しながら、健康経営の普及啓発に取り組んでいます。マインドヘルスに関しても、その一環として職域での啓蒙・教育が重要です。このようなパートナーシップによる啓発の取り組みを続けていきます。

 当社は、特にリスクの予防啓発に取り組んでいます。具体的には、全国の中小企業に健康経営の導入・実践を呼びかけ、従業員に人生の夢や目的を持ってもらう。それを実現するために、身体、心、社会的健康に関するリスクを理解してもらい、予防するための知識やスキルを身につけてもらう活動です。

 特に中小企業において、適切な組織体制の整備がまだ十分ではないケースが多いですが、その理由は「健康経営は知っているが、実際導入するにはどのようなことをしたらいいのかわからない」という経営者がいるからです。コロナ禍を経て、従業員のストレスに対する対処が喫緊の課題となっていることは、グローバルな意識調査からも明らかになっています。

 アクサは15年4月に健康経営を自社で導入し、7年連続でホワイト500(健康経営優良法人認定を受けた、大規模法人上位500社)を取得しました。この知見を生かし、中小企業向けに「健康経営サポートパッケージ」を開発し、PDCA(計画・実行・評価・改善)を回すサポートを行っています。産業医を持たない中小企業には、シェアードサービスのスキームで「産業医プログラム」を提供し、ストレスチェックなど専門家の知見を従業員に提供しています。

――マインドヘルスについては、欧米が進んでいて、日本が遅れているという状況でしょうか。欧米と比較して、今後どのように改善していくべきとお考えですか。

 マインドヘルスの取り組みについて、私たちは日本がほかの国よりも遅れているとは思っていませんし、ヨーロッパが進んでいるとも感じていません。

 この問題の改善には、職場で安心して話せるような環境を作ることが大切であると考えています。マインドヘルスの問題は、本人だけでなく、家族の負担も大きく関係しています。特にコロナ禍で、家族に介護などのケアを提供する側も非常に大きな負担を強いられてきました。

 介護については、日本をはじめヨーロッパも同様の問題があると考えられます。私自身、親の介護や子育てなどで板挟みになる「サンドイッチ」世代で、実際に介護経験者でもあります。

 そういった介護をすることが、無意識のうちに社会の中で当たり前のように捉えられており、職場でも誰にも相談できないという傾向があるようです。介護を行う周りの人々のストレスについては過小評価されがちになっており、世界的にも企業の職域における対策が遅れているという傾向が見られます。

――多死高齢、生産年齢人口が減少する社会への対応についてお聞きします。アクサでは、健康経営を導入、実践しようとする企業に対して、福利厚生制度の強化、ビジネスケアラーへの対応の重要性を啓発されています。その狙いについて教えてください。

 世界的に、50歳以上の従業員数が指数関数的に増加しているという状況があります。そこで当社は保険会社としてだけではなく、雇用主としても、特に介護の提供者側にフォーカスしてケアを行う必要があると考えています。

 当社は両親や障害がある子どもの介護をしている人に向けて、新たに休暇制度を創設することを決めました。日本ですでにあった介護休業や介護休暇、子どもの看護休暇に加え、家族の看護・通院の付き添いや、介護のために5日間の有給休暇を取得することができる「ファミリーケア休暇」導入の検討を進めています。介護提供者の負担感を軽減することが、非常に重要だと考えているからです。

 また、グローバルなポリシーとして「エイジダイバーシティー(年齢の多様性)マネジメント」を重視することとしました。年齢によって業務上の差別が発生しやすいことがあるため、「年齢は独創性や個人の能力とは関連しない」という考え方を打ち出し、全年齢層の方々に責任のある仕事を担ってもらい、イノベーションを促進できる環境の整備を目指しています。

 22年に役職定年制度を廃止し、年齢にかかわらず能力や意欲に応じて重要な業務を担っていただける環境となっています。また同じ年の4月から、段階的に定年年齢を引き上げ、26年1月には65歳定年になる予定です。その後も就業機会を提供することを検討しており、より幅広い年齢層の人たちが活躍できる環境が整っていくと考えています。

 従業員全員が健康で、長期にわたり能力や組織ニーズに応じた仕事を続けられるような環境を整備していくことが当社の方針です。また全員が年齢にかかわらず必要な研修を受けられ、公正に昇進の機会が与えられるように取り組んでいきます。

――サッカー女子日本代表・長野風花選手が所属するリバプール女子チームのトレーニング施設へのサポートを開始されています。女性活躍推進に対するアクサの考え方、特に女性のリスクにフォーカスした施策についてお教えください。