女性のリスクが過小評価
生産性に直結する「健康問題への理解度」
先日リバプールを訪問し、トレーニングセンターも訪れました。当社にとって非常に重要な投資となっています。というのも、スポーツ界においては、いまだ女性の存在感が低いという問題があり、スポーツの領域で女性をサポートしたいという企業姿勢を示したいと考えたからです。
そこで「Being a woman shouldn't be a risk.(女性であることがリスクであってはならない)」というグローバルブランドキャンペーンを展開しています。女性のリスクが過小評価されているという課題を認識し、ジェンダーにかかわらず活躍の機会や場が提供されるようになることが大事です。また、女性の健康に関する評価および検証が不十分であることも問題視しています。
たとえば心臓発作に関しても、男性と女性では発症時の症状が異なるにもかかわらず、女性側の症状については適切な診断が十分に行われていないというケースがあります。こうした課題を解決するために、女性をリスクから守るためのリサーチなども行っていきます。
当社が雇用主として行っていること、女性従業員向けに提供していることについて、2つの例があります。
一つ目は、女性リーダーを増やす取り組みについてです。過去7年間、当社はこの取り組みに多くの投資を行ってきました。女性の有能な人材を昇進させ、リーダーとして育成することを目的としています。すでに経営層の34%は女性であり、日本でも同様の比率です。世界のトップ300企業の中でも、この取り組みに成功している数少ない企業の1社として数えられています。
二つ目は、23年10月に「DVポリシー」と呼ばれる、ドメスティックバイオレンスに関するポリシーを発表したことです。当社が事業展開しているすべての国や地域でこのポリシーを適用することを決めました。このポリシーには、セクシュアルバイオレンスや家庭内暴力などの被害に遭った従業員をサポートするためのプログラムが含まれます。
女性の健康課題についての理解度が高い企業、職場は、女性のキャリア実現を後押しすることにつながります。インクルージョン(包摂性)&ダイバーシティー(多様性)の観点からも魅力的であると同時に、結果として生産性も高いとされています。
アクサでは、今回のCareプログラムで「健康」への取り組みを強化し、特に女性の月経や更年期に加えて、男性の更年期も支援していくことを決定しました。
日本では、23年4月に女性の健康課題を中心としたサポートを提供するヘルスケアサービス「Cradle」を導入しています。また、医師や専門家によるセミナーを通じた教育・啓発などのサービスを通じ、社員のヘルスリテラシー向上と、誰もが活躍できる環境の整備を目指しています。
――女性活躍に関する施策は、女性であるカリマさんがグループの人事部門リーダーに就任されたから進んだことなのでしょうか。それとも、もともとアクサにそういう土壌があり、いま形として表れてきたということでしょうか。
企業文化の一つとして、すでにこのような取り組みはありました。
「アクサ」というブランドで複数の相互会社形態の保険会社が統合した、グループの中興期以降、50年間にわたり、実はたった3人のCEOで経営を継承してきたという非常にユニークな歴史があります。アクサ中興の創業者、クロード・ベベアールは、80年代から経営統合により多様な人材を獲得し、その力を引き出すインクルージョン&ダイバーシティーを戦略的に経営に組み込み、DNAとしてきました。
私自身については、当社に入社する前は医療関連の仕事に10年間携わっており、病院や介護施設でも働いたことがあります。特に女性の健康に関心があり、私自身も18年に姉妹の介護を経験しました。彼女はがんを患っており、介護が必要な状況でした。
12年、アクサの人事部門の担当者として入社し、5年後にグループの人事部門のトップになりました。女性のキャリアには関心があり、女性向けの施策は私自身のこととしても捉えられるテーマなのです。
――24年以降、新たな戦略計画、特に人事戦略の観点から、アクサをどのように成長させていきたいですか。
人的資本がビジネスの成長と成功において非常に重要な役割を果たすことを理解しています。人材戦略を第一に考えて「Care&Dare」を打ち出したのです。保険ビジネスはピープルビジネスであり、専門知識と人という要素が重要であると考えています。
次のフェーズとして、日本においても優秀な人材を採用していくサイクルを作ることが必要であると考えています。