このうち、文春で証言した女性には(5)と(8)の要件が関わることになります。巷でバッシングされている「女性が芸能界に入りたいので接近した」といった議論は、法廷ではこの要件が加わった以上、あまり意味を持ちません。つまり、松本氏が「同意があった」と主張しても、女性の証言の方が重視される法律に変わっているのです。
では、松本氏が反撃する方法は何でしょう。できるとしたら、証言した女性の個人攻撃です。たとえば、「他の芸能人とも交渉があった」「個人的に事件や問題を起こしていた」などですが、これらを法廷で繰り返せば、むしろセカンドレイプとして、よほど正確なエビデンスでもない限り、裁判所も国民も心証を害するでしょう。
裁判所からの和解案は
いつ、どのように出そうか
こう考えて行くと、最大の争点である女性の証言が真実だとしたら、松本氏に勝ち目はほとんどないと思います。この段階ですぐに、裁判所が和解案を出してくることがあります。裁判の行方が見えた以上、早期決着が裁判官の使命でもあるからです。
文春の場合も、記事の瑕疵を見つけて「その部分だけ名誉棄損を認め、賠償金120万円で和解せよ」といった勧告を何度も経験しました。記事の主要部分が認められれば和解するしかないというのが現状なのです(文春が勝訴したジャニーズ裁判でも、主要部分は認められ、一部で真実性が証明できていないといった理由で120万円の賠償は命じられていました)。
しかし、記事の主要部分が認められている和解案を松本氏側がのむことは、絶対できないはずです。となると、和解案を蹴って裁判所を怒らせ、一審は敗訴となるでしょう。そして、控訴して高裁で裁判を続けることになります。
一方、文春側は二の矢、三の矢が用意できます。民事で主要部分を認めた和解案が出たとしたら、時効にかからない別の被害者に民事と刑事双方での告訴を勧めるのです。これはジャニーズ裁判の反省でもあります。ジャニーズ問題で最高裁の判決が下りたとき、証人に出た子どもたちに民事と刑事双方で告訴させれば、もっと早い段階で性加害問題は解決していたかもしれないからです。
現在の世論や法律改正の流れを考えても、捜査当局は刑事告訴を受理せざるをえないでしょう。となると、女性たちをホテルなどに招いたタレントたちも、共犯の容疑者として捜査対象となります。共犯になるのを恐れるタレントの中には「松本氏に頼まれた」、あるいは「強要されて女性を呼んだ」としか言いようがなくなる人も出てくるでしょう。となると、松本氏が刑事的に起訴される可能性もありえます。