もちろん、裁判は心証だけで決まるわけではありません。最大の争点は、不同意性交を強要されたと証言している女性の証言が真実かどうかです。彼女は自身が法廷に出るということも記事で証言しています。他にも、被害女性たちが続々文春の記事に登場していますが、今回は第一弾となる記事だけを訴えているため、真実性を争うのは彼女の証言ということになるでしょう。

 現在の裁判では、レイプ被害者などの保護が重視されています。証言台に衝立を立てたり、ビデオで証言したりと、被害者がレイプしたとされる人間と直接視線を合わせて恐怖を感じないように配慮されているのが通常です。つまり、被害者が恐怖心から証言を翻意する、証言台で緊張して真実を語れない、といった可能性は低いと考えられます。

 一方、松本氏が性交渉を強要していないと証言しても、セクハラなどで「権力がある側の証言に信憑性はない」と判断するのが、法曹界の常識です。ましてや、今回は何人もの被害者が名乗り出ています。

裁判の行方を左右する
不同意性交等罪の要件とは

 さらに、強制性交等罪、準強制性交等罪から不同意性交等罪への改正による影響も無視できません。以前の成立要件は以下でした。

(1)暴行若しくは脅迫を用いること。
(2)心身の障害を生じさせること。
(3)アルコール若しくは薬物を摂取させること。
(4)睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること。

 不同意性交等罪では、さらに4つの要件が加えられています。

(5)同意しない意思を形成し、表明し又はそのいとまがないこと。
(6)予想と異なる事態に直面させて恐怖させ若しくは驚愕させること。
(7)虐待に起因する心理的反応を生じさせること。
(8)経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること。
 
(以上は、阿部尚平弁護士・弁護士法人デイライト法律事務所による解説)