多くの弁護士が「裁判は長期化する」と言っていますが、それは「一審で負けても二審、そして最高裁まで引き下がらないだろう」という見立てを前提にした話で、一審そのものは、それほど時間がかからないかもしれません。

 そして、その進め方はかなり強引です。私が文春時代に経験したある裁判では、百数十万円の賠償金を文春に課すという和解案が出ました。が、先方が和解を拒否し、判決を望みました。結果は、予想外の相手の敗訴となりました。いろいろ理由はあるのでしょうが、「裁判官の提案を拒否した」ことへの見せしめだろうと、当時の弁護士は解説してくれました。

松本氏と吉本が不利になりそう?
「心証」という無視できない要素

 このエピソードを前提とすると、まず裁判官の心証が大事になります。心証という点では、吉本興業とその所属タレントは、かなり危ういのではないかと思います。

 1991年に暴力団対策法が制定され、司法組織が本気で暴力団撲滅に挑んでいる中、『行列のできる法律相談所』(番組名は当時)という「法律を看板にしている」番組で、暴力団との関係が深い島田紳助氏に長らくMC役を担当させました。その結果、2011年に黒い関係が発覚、島田氏は引退に追い込まれました。

 振り込め詐欺と半グレ問題が社会問題化していた19年には、吉本興業の所属芸人による闇営業問題がもち上がりました。半グレ集団のパーティーに大勢の芸人が参加し、年金しかない老人から振り込め詐欺で奪ったカネを、ギャラとしてもらっていました。

 そして、今回の松本氏の問題は、23年7月、強制性交等罪、準強制性交等罪を不同意性交等罪に改正し、適用範囲を拡大してまで性加害を防ぐという、強い意志を法曹界が示した直後に発覚しました。

 芸能界の権力者が権力を利用して、一般女性に不同意の性交渉を要求する場を何回もセットしていたと言われる、悪質な行為に対する告発なのです。しかも当初、吉本興業は不同意性交の温床となった会合自体があったことを全面否定するようなコメントを出していました。

 吉本だけでなく、松本氏の弁護人が裁判に与える印象を危惧する声も聞かれます。松本氏側の田代政弘弁護士は、検察官時代に小沢一郎氏の資金管理団体「陸山会」事件の捜査で、報告書を偽ったとして告発され、懲戒処分を受けた人物です(嫌疑不十分で不起訴)。付け加えると、陸山会事件の小沢氏側の弁護士は、今回の裁判で文春側の代理人を担当する喜田村洋一・文藝春秋顧問弁護士です。何やら因縁めいたものを感じます。