会計思考を持てば
キャッシュの流れが見えてくる!

村井 ところで、前にユニクロ店舗の標準モデルを決めるお話が出ましたが、標準店舗をつくるにあたって安本先生もいろいろなアイデアを出されたのですか。

安本 ええ、私も相談を受けて会計的な視点から意見を出したり、みんなで一生懸命考えましたね。床の素材や什器などもひとつずつ検証しながら、「1円でも安く」を徹底的に追求しました(笑)。

 ローコストオペレーションを考えると、耐用年数の長いものが理想です。最初の頃は、よく外食産業などで使用されている安くて頑丈な食器棚を転用して、陳列棚にしていた時期もありましたね(笑)。

安本隆晴(やすもと・たかはる)公認会計士・税理士。株式上場準備コンサルタント。1954年静岡生まれ。1976年早稲田大学商学部卒業後、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)などを経て、安本公認会計士事務所を設立。1990年(株)ファーストリテイリング(旧・小郡商事)の柳井正社長と出会い、以降、株式上場準備コンサルタント・監査役として、同社の躍進を会計面から支えてきた。現在、アスクル(株)監査役、(株)リンク・セオリー・ジャパン監査役、(株)UBIC監査役、(株)カクヤス監査役、中央大学専門職大学院国際会計研究科特任教授でもある。著書に『熱闘「株式公開」』『「ユニクロ」!監査役実録』(ともにダイヤモンド社)、『数字で考えるとひとの10倍仕事が見えてくる』(講談社)、『火事場の「数字力」』(商業界)など。柳井正著『一勝九敗』『成功は一日で捨て去れ』(ともに新潮社)の編集にも携わった。

村井 何でも数字化して考えるクセをつければ、キャッシュの流れもよく見えてきます。資金繰りができなくなれば会社は倒産してしまいますから、キャッシュフローを見張ることはとても重要です。

 私の著書の中でも解説していますが、例えば全て同じ条件で商売を始めたと仮定して、「現金・掛け」と「売り・買い」の組み合わせによる4つのパターンを展開するとどうなるか。1年後の損益状況は全く同じであっても、結果的にキャッシュが1番残るのは「現金売り、掛け買い」のパターンです。

 売上で入ってくるのは現金なのか掛けなのか、仕入れ代金の支払いは現金なのか掛けなのか、それによって手元に残るキャッシュの額が全く違う。つまり、キャッシュの回収や支払いのタイミングによって、回転差資金が出るということです。こういう構造を理解していない人は多いのではないでしょうか。

安本 そう思いますね。ビジネスによって、毎日キャッシュが入ってくる小売りもあれば、売掛で月末に請求書を出して翌々月の振り込みなど、いろんなケースがあります。特に手形はキャッシュを受け取れるのが通常2、3ヵ月以上先です。キャッシュの入りが遅れても、経費や人件費などは当月に支払いますから、売上が黒字でも破たんする可能性は出てきます。

 そこで、損益構造と併せてキャッシュの回収条件・支払条件にも意識を巡らせなければいけません。理想を言えば、回収条件が早くて、支払い条件がなるべく遅いという約束ですが、現実にはこれはなかなか難しいですよね。

 会計思考を持つというのは、ビジネスの損益構造とキャッシュフロー構造をしっかりつくり、その両方ともプラスにするよう考えて行動できること。経営者だけでなく、社員全員が「儲ける」「キャッシュが残る」構造を意識して実行していくことが大切なんです。