『ユニクロ監査役が書いた 強い会社をつくる会計の教科書』の安本隆晴氏と、『強い会社の「儲けの公式」~AKB48、ユニクロから青山フラワーマーケットまで、あのビジネスはなぜ成功しているのか』の村井直志氏の公認会計士対談。会社をつくるのは人。ビジネスパーソンにも、企業と同様「棚卸し」が重要だった!目からウロコの最終回です。
社員に「仕事の棚卸し」をしてもらうと
会社やプロジェクトがスッキリする
村井 安本先生は『強い会社をつくる会計の教科書』の中で、作業量を人数×時間=人時の単位で計算し、社員1人が1時間当たりでどのくらい売上を上げているのかを見る「人時売上高」や、社員1人が1時間当たりに稼ぎ出す粗利を見る「人時生産性」という指標について解説されていますね。
私も『強い会社の「儲けの公式」』で取り上げましたが、京セラ創業者の稲盛氏は時間当たり採算=人時管理という概念を取り入れ、「時間」を採算性の指標として活用しています。1人ひとりの作業量が組織全体の損益にも影響してくるわけですから、そういう発想が必要なんですよね。
安本 ええ、効率的な働き方というものがありますよね。
私がコンサルティングする会社で、まず実施していただくことの1つが社員1人ひとりの「仕事の棚卸し」です。
要は、自分が毎日どんな仕事をしているのかを紙に書き出してもらうのです。仕事内容を明確にすると、他の部署とダブっているとか、この作業に部下は1人で足りるとか、ムダがいろいろ見えてくるのです。
また、そのときには定型のテンプレートは用意せず、自由に書いてもらいます。その書かれた内容を見ればその人の能力がある程度分かります。そこで、いろいろな可能性を探って、新部署を立ち上げてリーダーに抜擢したり、いくらでも改善できるところが出てきます。
「仕事の棚卸し」はどんな場面でも効果てきめんです。悪者を見つけるのではなく、皆で業務改善や作業効率アップなどを目指し、仕事の目的の再確認もするので非常にスッキリしますから、みなさんにもぜひやっていただきたいですね。
村井 財務会計で「在庫の棚卸し」が必要なように、日常の業務における「ビジネスの棚卸し」もしなければいけない。この「棚卸しの視点」を持つことが大切であるということですね。
安本 そうです。大企業の部長や課長たちから会議が多過ぎるという不満もよく耳にするのですが、そういう時こそ「会議の棚卸し」をすればいいのです。
例えば、出席者の時給を換算すると会議の値段が出ます。原価100万円の会議だとすると、100万円以上の付加価値がないと会議をする意味がないということです。
村井 ようするに、会議をしているのはフローの感覚で、仕事の棚卸しはストックの感覚。決算書に置き換えると、P/Lで売上高や利益を確認し、B/Sで資産や負債のストックを把握し、C/Fでキャッシュの流れを見極めることが大事であるのと同じで、ビジネスにおいてもフローやストックを常に意識しなければいけない。そのためのビジネスの棚卸しが必要であるというわけですね。
何でも数字化すると
物事の捉え方がガラリと変化
村井 安本先生が指摘されているように、「何でも数字化できる人が、会計思考経営者」だと思いますね。
余談ですが、私も何でもお金に換算するクセがついていて、例えば訪問先の会社でソファーが新品に買い換えられていたりすると、価格や耐用年数を考えてピピピッと計算してしまうんです。10年使えるなら1年間で1万円のコスト負担だから安いとか、2万円で1年間しかもたないなら割高だとか、あれこれ考えてしまうのは会計士の性かなと(笑)。
安本 私もそうですよ。食事に行ったお店で売上はどれくらいあるのだろうかと計算を始めてしまいますね。例えばランチ営業で何回転するのかを考えて、10席で3回転すれば30席分。平均単価1000円だとすると、売上は3万円程度だなって(笑)。
村井 会計士の頭の中を披露していただきました(笑)。
安本 特に今は外食企業のコンサルをしていることもあって、お店に入る度にいろいろ気になりますね(笑)。
当然、高級レストランなのか、立ち食いイタリアンなのか、営業内容によっても見るべき指標は違ってきます。また、同じ寿司のお店でも、回転寿司のように寿司職人が握らなくても成り立つ場合はチェーン展開で拡大していくことができますし、一般の寿司屋は主人の腕にお客がつきますから店長としての役割も全く違ってきます。料理人はオペレーションを嫌がったり、腕が上がると独立心も強くなってきますので、外食店にはそういった難しさもありますよね。
村井 まず何でも数値化してみる。そうすることで目標値が明確になり、より有効な戦略が立てられる。問題や課題解決にも的確に対処していくことができますね。