労働分配率の低下は、賃金交渉の不足に起因する現象だ。特に日本労働組合総連合会(連合)の賃金交渉は、心底がっかりするほどに腰が引けている。2023年10月19日に提示された「2024春季生活闘争基本構想」では、「3%以上」のベースアップ(ベア)を要求する方針が示された。前年に提示された「3%程度」と比べれば表現こそ修正されているものの、数値は不変だ。

 この要求方針には首をかしげざるを得ない。何しろ、企業収益は未曽有の高水準に達し、なおかつ労働市場が構造的な売り手市場へと変貌している。そのさなか、なお物価よりも低い賃金上昇率を連合が要求することは、いかなる理由をもってしても度し難い。

 振り返ると、1990年代末から直近に至るまで、連合は有意な賃金交渉ができていない。これは97年の金融危機に端を発した就職氷河期で賃上げへの期待がついえ、連合の至上命題が雇用の維持にシフトしたためとされている。2000年以降は、賃金交渉自体が行われなかった年も珍しくない。

 ここに、賃金と物価の好循環の障壁が立ちはだかっている。連合を始め、労働組合は至上命題を雇用の維持から賃上げへと回帰させるべきだ。日本経済の命運は、賃金交渉の再活性化に懸かっている。

(みずほ証券エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)