能登半島地震で「無住集落」の
増加が加速する可能性

「豪雪地帯を抱える北陸は、以前から無住集落の多い地域。今回の能登半島地震で無住集落の増加が加速するのは間違いないでしょう」

 そう指摘するのは、金沢大学人間社会研究域地域創造学系の林直樹准教授だ。無住集落の研究を続けている。

 林准教授は国勢調査の人口がゼロになった集落を「無住集落」と独自に定義し、調査・研究を進めている。国勢調査の人口は「常住人口」、つまり常にそこに住んでいる人の数である。石川県の無住集落(ダム水没などを除く)は、15年は33カ所だったのが20年には44カ所と急増している。

 過疎地域から都市部への移動は止まらない。積雪への対応や子どもも含めた家族全員の暮らしを考えると、ショッピングセンターや病院が近く、交通アクセスのいい場所のほうが住みやすいと考えるのは当然といえる。一方、農地や山林の担い手不足も深刻で、無住化を促す要因になっている。

 石川県内の全ての無住集落を回り、調査した林准教授は言う。

「石川県を対象とした調査では、『大字(おおあざ)』を一つの集落と見なしています。『大字』というのは、江戸時代の村の単位を指すことが多く、市販の地図でも境界線が確認できます。地方によっては、『大字』がものすごく大きいところもある。石川県の『大字』は、たまたま、認識する集落と近かった。石川県は江戸時代のまとまりが残っているので、研究しやすいエリアです。無住集落の全国的なデータはありませんが、増加傾向は全国一緒だと思います」

 一口に無住集落といっても、いろいろな形態がある。朽ち果てた住居が転々と残っていて、生い茂る草木に飲み込まれそうな集落。人の営みの痕跡が消え原野に返ろうとする集落。その一方で牧草地として生き残っている場所もある。また、春から秋にかけて、住民が通いでやって来て田畑を耕している所もある。無住にも個性があるのだ。

 集団移住は、いわば「事業として無住集落をつくる」こと。林准教授はこう指摘する。

「まず、強制移住は論外。まったくもって駄目な話です。一方、皆で話し合った結果、市街地などに移住した方がいいよね、というのならあり得ると思う。しっかり議論してから決断するといったプロセスが大事」

 また、故郷を守るか・捨てるかといった、二者択一の議論は不毛だという。

「無住化を選択するとしても、『こんな無住の形もある、あんな無住の形もある、住まずに守るという形だってある。だから、どうですか?』という感じにしないと。『無住とは故郷を見捨てて…』みたいな議論で進むのはよくない。当事者にとって二択しかないというのはつらい。複数の選択肢を示した上で、建設的に議論をすべきではないでしょうか」