石川県珠洲市の高齢化率は50%超
「議論を避けて通ることはできない」
日本海に突き出た能登半島。その最北端に位置するのが石川県珠洲市である。海岸線に半農半漁の集落が点々と続く。1954年(市制施行時)の珠洲市は人口3万8000人を数えたが、2023年は1万2000人を割った。高齢化率は50%を超えている。
元日の昼下がり、マグニチュード7.6、最大震度7を観測する地震が過疎高齢の半島を襲った。崖は崩落、海辺の風景は一変した。道路は亀裂が入り寸断し、多くの集落が孤立状態となった。住民およそ100人の珠洲市高屋町もその一つだ。
発災から10日余りを車で寝泊まりした男性(80代)は現在、高屋町からおよそ160キロメートル離れた加賀市内のホテルで避難生活を送っている。
「子どもの頃、高屋には100戸ほどありました。今は45戸か50戸くらい。能登は限界集落だらけですよ。それで、地震でみんな避難所行ったり、子どものところ行ったりで、バラバラになってしまった。もう高屋には住めないかもしれない」
集団移住についてどう考えますか?と聞いてみると、「そんな話があるんけ?」と逆に質問された。集団移住を巡り、ネット上がざわついている話をすると、
「へぇー、そうなんや。みんな帰りたいと思っとるとは思うけど…。海沿いの集落はもしかしたら消滅するかもなぁ。珠洲市の人口も、半分になってしまうかもしれん」
そして「『ひろゆき』って誰?有名な人?」と聞かれた。「論破した、論破された」という論争は、避難生活を送っている人にとっては“遠い花火”のように映るだろう。
林准教授に「今、集団移住の話をするのは不謹慎だと思いますか?」と尋ねてみた。
「確かに、いまだ安否不明者もいるし、車内で生活している人もいる。不謹慎というよりも、まずもって話が届かないと思う。水は?電気は?仮設住宅は?と、それどころではないだろう」
「でも、腰を据えて『さあどうしようか』という瞬間が近々来るはず。そのくらいで話し合うのがベターではないでしょうか。集団移住を選択するにしろ、しないにしろ、住民の合意が大切であり議論を避けて通ることはできません」
政治は、過疎とどう向き合ってきたのだろうか。建設的な議論が高まる場をつくること、それこそが政治の役割であるはずだ。