小幡 確かに読んでもらいたいけど、僕の場合はとにかく書いているときが“So Happy”なんだよね。

山口 僕の場合は逆で、書く作業はすごく辛く感じますね。

小幡 もちろん、いくら頭の中で整理されていても、それを文章として書いていくのはしんどいことだよ。村上春樹の場合は、登場人物を決めて名前をつけると彼らが勝手に自分から動き出し、まるで誰かが自分に乗り移ったかのように自然と筆が進んでいくらしいけど、僕の場合も少し似たところがある(笑)。

山口 僕は、できるだけ多くの人に自分の考えを知ってもらいたい一心で本を書いていますね。僕は父とよく似ていて、彼は頭の中ではいろいろなことを深く考えているのに、それを外に向かって発信しようとしなかった。僕はそれが不満だったんです。自分の中だけで完結していては、マスターベーションみたいな自己満足にすぎませんから。

小幡 僕も読まれたいからすごくわかりやすく書こうと努めたりするけど、結局は自分の理想像に自分で近づいていく行為である気がする。僕は常に、自分自身の中で葛藤しているんですよ。自己を客観視している自分の目に晒されていて、今のその振る舞いは偽りだ!と自分自身に怒られてしまう。でも、本を書いてその内容に自分でもすごく納得がいくと、まるで好きな子に認めてもらえたような気になるんです。いわば本を書くという行為は、ナルシストとは違う意味での究極の自己愛なんじゃないのかな?

山口 なるほど。僕とはまったく異なる感覚なんですね。

客観的なモノサシでありながら、神秘性も秘めているお金

小幡 山口さんにとって数冊目の本ということですけど、今回はどうしてお金に関する本を書こうと思ったんですか?

山口 僕って、昔からとにかく考えることが好きなんですよ。大学を出て最初はM&Aのコンサルティングを手掛ける仕事に就き、会社とは何かについてとことん考えて、いくつかの本にまとめました。続いて市場(マーケット)とは何かについて突き詰め、今度は株式投資に関する本を書きました。そして5冊目の著書となるこの本では、市場よりもさらに大きな概念であるお金をテーマに掲げてみたんです。

小幡 市場よりもお金のほうが大きいっていうのは、ちょっと意外な感じがするなあ。市場は人が集まる場所で、お金はそこで用いる手段である、というのが1つの考え方だよね?それに基づけば、むしろお金のほうが市場に従属していることになる。