火災旋風発生のメカニズムは未解明
現在でも起こり得る可能性は十分ある

山口氏

山口 いろいろな実験は行われています。非常に強い風ですと渦を巻くと竜巻のようになる。弱くても旋風は起こらない。一方で、YouTubeなどの動画でも山火事の際の火災旋風など、たくさん公開されていますが、強い風でも発生することもあれば、弱い風でも発生することもあります。

 気象というのは非常に複雑なので、火災旋風の具体的な発生条件はわかっていないというのが現状です。

――当時は木造建築が多かった、東京は住宅が密集していた、といったことも関係しているのですか?

山口 それもわかっていないんです。地震関連でいえば、東日本大震災のときも、一部で火災旋風が発生したといわれていますね。今の建物でも、東京のように住宅が密集していなくても、起こるときは起こる。関東大震災に限らず、大火事が起これば、現代でも火災旋風は起こり得るものなのです。

――複雑な条件が絡み合って発生するため、発生のメカニズムは解明に至っていない。「昔の東京は木造の建物が密集していたからなあ」と、現代の私たちには関係のないことと決め付けず、条件さえ合致すればいつでも起こり得るということを、頭の中に入れておく必要があるということですね。

山口 よく、運動場などで、つむじ風がイベント用テントを吹き飛ばしてしまうシーンがテレビなどで放映されたりしますよね。あれが巨大化したものが超高温の火をまとい、襲いかかってくるようなものです。周辺にいた人がそのあまりの風の勢いに体が吹き飛ばされ、石塀にたたきつけられたという記録もあるぐらいです。周辺でさえそれほどの風速なので、グルグルと火が巻いている旋風が直撃したら、もうどうしようもありません。

――火災旋風が発生したら防ぐ手立てはなく、燃えるものは燃えて、風がやみ、火災旋風が収まるまで、待つしかないと。

山口 そうですね。当時の新聞に「全市火の海と化す」「帝都は見渡す限り焦土 此世ながらの地獄」と書かれているほどすさまじいものですから、個人ではどうしようもないですね。目撃したら、すぐに、でも落ち着いて、できるだけ遠くへ避難する。これしかありませんね。

――ありがとうございました。

先人たちが未来に向けて
残してくれた「記録」

 関東大震災の火災は、9月1日午前11時58分の地震発生直後から起こり、台風の影響による強風と飛び火によって、東京の至るところで出火。夕方6時頃、前線が関東を通過して風向きが変わると、延焼の方向が変わり、翌9月2日にかけて火災旋風が東京中を席巻(せっけん)した。同日夕方6時頃に火災は落ち着き始め、9月3日午前10時にようやく鎮火されたと記録に残る。地震発生から実に46時間もの間、東京を燃やし続けたことになる。

 飛び火と火災旋風を防ぐには、何より火を出さないことだ。揺れに気付いたらすぐに火を消す。日頃から家具などの転倒防止策をしておく。万が一、火事が発生したとしても、すぐに消火できるよう、住宅用火災警報器の設置や、家庭用消火器を用意しておく。消火器がなく水を使う場合は、石油ストーブや油の入った鍋などに水をかけると逆効果となる危険性があるので、濡らしたバスタオルやシーツを複数枚かぶせて応急的に対応する。日頃からこうしたちょっとしたことを意識しておきたい。

 関東大震災発生後、国内外から多くの義援金が寄せられた。当時の内務省の資料によると、その総額は約6459万円に上り、その3分の1以上に当たる約2211万円、現在の貨幣価値で約100億円以上は海外約30ヶ国から寄せられたという。関東大震災が起こった9月1日は「防災の日」と定められ、防災訓練や防災を啓発する行事が全国各地で行われるようになった。

 人類はこうした巨大地震を過去に何度も経験してきた。惨状を目の当たりにした先人たちは、いつかまた必ず発生する巨大地震で役立ててほしいと、未来の私たちに目を向け、記録を残してくれている。

 歴史を知ることは重要だ。いつ何が起こるかわからず、学んだところで、有事の際に役立つかどうか、助かるかどうかはわからない。でも歴史しか教材がないのであれば、それらを学ぶほかに手段はない。人の一生で経験から学べることは限られているが、歴史にはこれまでの人類の苦難や選択、教訓が詰まっており、人類の経験を学ぶことができる。

 私たちは記録をひもとき、歴史を学び、先人たちの体験や犠牲を知り、有事に活かす必要がある。そしてまた次の世代へと継承していかなければならない。