飛び出した「コロポックル」の住居説
調査に当たった坪井正五郎の見解によれば、これは「コロポックル」の住居跡なのだという。
コロポックルとは、アイヌ民族の間で伝えられる小人のことだ。アイヌ語の発音の関係で、コロボックルともいう。その語源は“フキの下の人”を意味するアイヌ語にあり、今日では伝承上の非実在民族とされているが、昭和前期には宮本百合子や宇野浩二など、名だたる創作家たちが物語の題材に用い、寓話的な認知を得た。
しかし、時は明治の世。アイヌ以前の先住民族としてコロポックル論争が白熱する中、坪井正五郎は吉見百穴の調査を経て、日本にはもともと小型の民族が存在し、それを後からやって来たアイヌが北方へ駆逐したとの説を後押しした。
確かに、実際に穴の中に潜ってみれば、そこで小さな民族たちが暮らした様子は想像しやすい。これが無数のシングルルーム、ツインルームが集合する巨大住宅であったなら、往時はさぞにぎやかで楽しい集落だったことだろう。


しかし、このコロポックルの住居説は、時代とともに立ち消えていく。そもそも小型民族の実在が学術的に証明されることがなかったからで、近代に至る研究の中で、アイヌは縄文人の血を色濃く受け継いでいることが判明している。