真相に隠された古代人の秀逸な知恵

 結論を言ってしまえば、吉見百穴の正体は、古墳時代に設けられた大規模な横穴墓群である。段で囲われたベッドのようなスペースは遺体を安置した場所で、複数の遺体を納められる構造を採っていることから、穴ごとに家族単位で埋葬された可能性も指摘されている。

 ちなみに、横穴墓とは読んで字のごとし、横方向に掘った穴を墳墓とするもので、古代人の歴史的な発明の一つである。これより以前、3~4世紀に造られた墳墓は、地面を垂直に掘って遺体を安置し、埋めてふたをする縦穴式だった。しかしこの構造には、一度遺体を埋葬した後に、再び中へ立ち入ったり次の遺体を追加で埋葬したりするのが難しいというデメリットがあった。

 そこで、盛られた土を横から掘って埋葬スペースを造り、扉を付けて開閉する仕様にアレンジすることで、同じ墳墓に後から他者を追葬できるよう工夫がされた。これが横穴墓である。

 実際、この吉見百穴では穴の入り口部分に石のふたが立てられ、造営後の出入りを可能にする構造が確認されている。つまり吉見百穴は、墳墓の進化の変遷をたどる貴重な遺構でもあるのだ。

 なお、斜面に並ぶ穴は、西から東へ行くほど整然と並んでいる。これは横穴群が西側から掘られ、次第に設計がブラッシュアップされていったことを意味している。

 また、下層にある穴より上層にある穴の方が広く、穴と穴の間隔がゆったりと設計されている。これが埋葬される人物の身分の差によるものなのか、それとも単に年代や地質の都合によるものなのかは今のところ判明していない。