松尾 でも『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(河出書房新社・ユヴァル・ノア・ハラリ著)に書かれているように、そうしたテクノロジーができてしまったら「死にそうな人を目の前にしても使わない」という決断は難しいですよね。マクロとしてはたしかに「使わない」という判断が妥当に思えるかもしれませんが……。

加藤 そうですね。それに、テクノロジーはどんどん進んでいくので、黙っていても人間は長生き自体はするようになりますよね。

松尾 先ほど、種としてうまく機能しなくなるというお話がありましたが、ディープラーニングの研究で明らかになったのが、微分可能である(連続性がある)ことはめちゃくちゃ強力ということです。ですから、今までの遺伝的アルゴリズムみたいに多種なものを作って、たまたま環境に適応したものが次世代に残る確率を増やす、という手法では進化としては遅いんじゃないかと。

暦本 じゃあ、ひとりの人間が1000歳生きて、1000年間連続的に学習をした方が、ダーウィニズム(自然選択と適者生存*2)よりも進化は早いということですかね?

*2[ダーウィニズム(自然選択と適者生存)]
「Darwinism」。イギリスの博物学者チャールズ・ダーウィンが唱えた進化論の中で、特に自然淘汰や適者生存の概念のこと。生物は環境に適応した個体が生き残り、子孫を残すことができたと考える。

松尾 多様性をきちんと確保するようにすれば、そっちの方が進化が早いかもしれません。

瀧口 種にとってもそのほうがいいんですかね。

暦本 究極の長老主義じゃないですか。

加藤 では、「あなたは1000年生きてください」などと選ばれる人が出てくるんですかね。

松尾 誰かを選ぶのは今の社会では難しいので、今いる人でやるしかないですよね。それで、死亡して欠員が出ると「子供を作っていいよ」という定員制みたいな社会になっていく可能性はあります。

瀧口 人口増大を無視して進めることもできないですよね。それから、地球環境への影響も考慮しなければならないですし、多様な論点のある技術だと思います。

数百年生きることが可能な
「亀の老化ペース」を研究

加藤 ちなみに今、100年とか1000年生きる生物っているんですか?

合田 ダーウィンがガラパゴス諸島から持ち帰った亀は、175歳くらいまで生きていましたよね。アフリカには300年くらい生きた亀もいるらしいです。

加藤 亀が数百年生きられるってことは、人間も頑張れば……。

合田 研究としては、亀はどうやって老化をスローダウンさせているかということを解明して、それを人間に適用しようとしています。
加藤 それは「原理上はできる」と判明しているんですか。