書影『東大教授が語り合う10の未来予測』『東大教授が語り合う10の未来予測』(大和書房)
瀧口友里奈 編著

合田 「できる」と言い切っていいのかというと、難しいです。というのも、老化はひとつの遺伝子だけが作用しているわけではなく、複数の遺伝子が複雑に相互作用して決まっているからです。ですから、ひとつの遺伝子をノックアウトしても、他の遺伝子がバックアップ的な機能を持っていたりする。生き物って、うまく死ぬようにできているんですよ。逆にいえば、生き物にとって死ぬことはすごく重要なんです。死ぬことでエコシステム(生態系)が機能しているわけですから。長生きするということは、知識ではなく「細胞をダウンロードする」ということでもありますよね。

加藤 なるほど。ということは、何をダウンロードするかによってだいぶ人生が変わってきますね。そういった科学技術は、10年後にはどのくらいのレベルまで進んでいるんでしょうか。

合田 世界経済フォーラム(ダボス会議*3)では、各国の重要人物が「この技術をどう規制するか」もしくは「どうサポートするか」を議論します。しかし、「ここが問題だ」ということは共有しても、その解決方法が議論されないまま1年が経ってしまうんです。しかも、その間にも新しい技術がどんどん出てくるので、倫理的な部分が追いついていません。例えば2018年、中国で「ゲノム編集ベイビー*4が生まれた」という報告がありました。欧米などでは「まず倫理的な議論をして、合意を得てから研究を進めましょう」という感じですが、中国は「とりあえず進めましょう」という方針です。それで、「こんな世界ができてしまう」っていうのを先に見せちゃうんですね。そしたらもう、追いつけないですね。

*3[世界経済フォーラム(ダボス会議)]
非営利団体の「世界経済フォーラム」が、毎年1月にスイスのダボスで開催する年次総会。国家元首や政府代表、企業のトップなど、世界100カ国以上の政治や経済のリーダーが集まって世界的な問題を話し合う。

*4[ゲノム編集ベイビー]
2018年11月、中国の研究者が遺伝子を書き換えるゲノム編集技術をヒト胚に使って、双子の女児を誕生させたと発表。その後、倫理的な面などで国内外から批判を浴び、その研究者は違法医療行為罪に問われ、服役した。

瀧口 合田先生は中国の武漢大学でも教授をされていますが、日本と中国は研究の進め方に違いはありますか。

合田 やはり民主主義と社会主義による違いがあります。日本のような民主主義は、まず予算を決めますよね。そして、じっくりと研究するので結果が出るまでが長いです。中国は共産党が決めるので、やはり予算は多いですし、結果が出るまでのスピードも早いと思います。