というか、僕自身は、この言葉のほうが、「よい仕事」「楽しい仕事」をするためにはより重要性が高いと考えています。
もちろん、あらゆる仕事は、当初設定した目標を達成すれば、いったんは「終了」します。しかし、この世に「完璧な仕事」というものは存在しません。完成したかに見える仕事でも、そこには必ず問題点があるのです。
であれば、僕たちに求められているのは、いったん完了した仕事の問題点を見出し、それを改善し続けること。そうして、商品やサービスを磨き上げていくことこそが、仕事の本当の「面白さ」「楽しさ」であり、そのプロセスを最速で回し続ける組織だけが生き残ることができると思うのです。
満席だったはずの客席が、ぽっかり空席に
だから、僕は、楽天野球団社長として社員たちに、「仕事に終わりはない」「もっと考えてほしい」「現状に満足せず、さらによい状態をめざしてほしい」というメッセージを出し続けていました。
その一例をご紹介しましょう。
そもそものきっかけは、僕が仙台の球場で観戦していたときに、ある光景を目にしたことにあります。
ゲームはすでに終盤に差し掛かっていたのですが、それまでお客さまで埋まっていたはずの内野指定席の一角に、100席をゆうに超える空席がぽっかりと出来ていることに気づいたのです。それに気づいた瞬間、僕は思わず唖然としました。
「これはまずい」と思った僕は、空席ができた理由を社員に確認しました。
すると、その一角は修学旅行生が座っていたのですが、午後8時を過ぎたために、校則に則ってホテルに帰ったのだと言います。しかも、あっけらかんとした表情で……。これに僕は、ちょっとだけカチンときました。
もちろん、校則なのだから修学旅行生が帰るのは仕方のないことだし、その席のチケットは売れているわけですから、その時点で社員たちの仕事は「完了している」と考えるのは、当然と言えば当然のことです。だけど、だからと言って、何の対策も考えようとしないのは、球団社員としてはいただけない……そう思ったわけです。
「チケットを売ったら、終わり」ではない
そこで僕は、担当部署のメンバーを集めて、「チケットを売ったら終わりじゃない。仕事に終わりなんてない。もっと考えなきゃだめだ」と訴えたうえで、対策を一緒に考えました。僕が腹案として持っていたのは、こんなアイデアです。
僕はよく、試合中に球場の周りを歩いてお客さまの様子を観察したり、お客さまの目線で球場がどう見えるかを想像したりしていましたから、いつも、チケットを買えなかったから入場はできないけれど、球場の雰囲気を楽しみたいというファンの方々が、ユニフォームを着て集まってくれていることを知っていました。
だから、修学旅行生が帰った後の座席に、そんなファンの皆さんを「無料」か「廉価」で座ってもらえればいいんじゃないか、と考えたのです。
なぜなら、そこまでして楽天を応援してくださる熱心なファンの方々は、僕たちにとって「宝物」のような存在だからです。そんな皆さんに対して、「無料」「廉価」で入場してもらうというサービスができたら、心の底から喜んでくださるに違いありません。
しかも、皆さんはものすごく熱心なファンですから、ぽっかりと出来た空席を単に埋めるだけではなく、球場のテンションを一気に高めるような熱い応援をしてくれるはずです。
その結果、選手のモチベーションが高まり、他のお客さまたちも再び盛り上がってくれるでしょうし、その様子がテレビ中継されれば、「楽しそうだな。今度、球場に応援しに行こうか」と思ってくださる視聴者が増えるかもしれない……。
それに、これが実現できれば、いろいろな可能性が広がると思いました。
たとえば、20時くらいから入場できる「廉価チケット」を売り出すことができれば、仕事の都合で試合開始時間には間に合わないサラリーマンが、「だったら、ビールを飲みながら観戦するか」などと思ってくださるかもしれませんよね?
「黒」を「白」にする
ただし、これを実現するのは簡単ではありません。
まず、お客さまがチケットをご購入いただくということは、お客さまが試合終了までその座席を占有する「権利」を買い上げるということにほかなりません。
ですから、修学旅行生が帰ったとしても、座席を占有する「権利」はあくまでもお客さまがもっているということ。その断りもなく、僕たち球団が勝手に他のファンに座席を開放することはできません。
そこで、僕たちは、修学旅行生(学校)がチケットをまとめて購入いただける段階で、試合途中で退席した場合には、球団が「ご購入いただいた座席」を再販売(あるいは無料開放)できるオプションを提示することができないかと考え始めました。「黒(違法)」を「白(合法)」に変えるために、法律的な観点から検討を開始したわけです。