ちょっとした改革でも、難問は山積する

 それだけではありません。
 オペレーション的にも実現可能性を検証する必要がありました。

 たとえば、修学旅行生の退席が5回のタイミングなのか、8回のタイミングなのかによっても状況は変わってきます。
 5回という中盤に、チケットをもたないファンを無料で入場してもらえば、普通にチケットを購入して観戦している一般のお客さまから「不公平だ」というクレームが入る可能性があるでしょう。だから、5回の場合であれば、「廉価販売」にした方がいいのかもしれません。

 一方、8回など終盤であれば、「廉価販売」であっても入場を躊躇するファンの方も大勢いるでしょう。であれば、「無料」で入場いただくのが適切と言えるでしょうし、それであれば、一般のお客さまもそれほど不公平感をもたれないかもしれません。

 というわけで、状況に応じて、「無料入場」か「廉価販売」を選択できるようにした方がよさそうだという判断になるわけですが、その場合には厄介な問題が生じます。というのは、状況に応じて臨機応変に入場料金を変更できるように、券売機のシステムを変更する必要があるからです。

 つまり、「妙案」ではあったのですが、それを実現するまでには、越えなければならないハードルがいくつもたちはだかっていたということ。

 しかも、残念なことに、この検討を始めた矢先にコロナ禍が発生したために、それどころではなくなってしまい、手作業でさばける程度の廉価チケットを販売するくらいのことはできましたが、システム変更などの大きな改修を実現させることはできませんでした。僕にとっては、心残りな案件なのです。

社員に「努力」を求めない

 もちろん、これはほんの一例です。
 僕は、これ以外にも、社員たちが「完了」したと思っている仕事であっても、「お客さまにとってこれは不便じゃないか?」「こうすればもっと喜ばれるのでは?」ということが見つかれば、一切の遠慮なく指摘。おそらく、社員のなかには「またかよ……」「めんどくせー……」などと不評を買ったこともあったと思いますが、そんなことはお構いなしに「もっと考えろ」と言い続けました。

 なぜなら、それこそ、仕事を楽しむ「王道」だと思うからです。
 繰り返しますが、この世に「完璧な仕事」など存在しません。完成したかに見える仕事でも、必ず「問題点」や「改善点」はあります。それに気づいて、手を加えていくことで、永遠にたどり着くことのない「完璧な状態」を志向し続けること。これこそが、「仕事をする」ということなのだと思うのです。

 そして、そのような「仕事」を続けていれば、いつか必ず、多くのお客さまに喜んでいただけていることを実感できる瞬間が訪れます。そのとき、僕たちは「この仕事をやってきてよかった!」「仕事って面白い!」と腹の底から思うことができるようになるのです。

 一度でもそういう経験をした人は強い。
 お客さまに喜んでいただける「楽しさ」が原動力となって、自らの「仕事」を見つめ直し、常に「改善」すべく自走し始めるからです。

 だから、僕は社員たちに「努力」を求めるのがリーダーの役割ではないと考えています。それよりも、「完了した仕事」の「改善点」を指摘して、社員たちに仕事の本当の「楽しさ」に気づいてもらえるように働きかけることが重要。仕事の真の「楽しさ」を体感することさえできれば、傍目には「努力」と見えることを、楽しみながら自発的に行う人材へと育っていくのです。そのようなアプローチをすることが、リーダーに求められているのだと思うのです。

(この記事は、『リーダーは偉くない。』の一部を抜粋・編集したものです)。