最も深刻な格差は、あらかじめ与えられ、自分では克服できぬ固定された格差である。

 前々回の当コラム(第10回 日本の「年金改革行き最終列車」はすでに出発した)で、「真の年金改革は現在の受給者の給付額を減らすことだ、と政府が正直に説明したら、既得権者である高齢者は改革反対、現状維持派に転じるだろう」と書いた。すると、当の既得権者である60代の方がたから、自分たちがするだろう反対の根拠を確かめたいのか、「その真の改革をしないとすると、年金制度はどうなってしまうのか」という質問をいただいた。

 では、お答えしよう。

 60代以上は、現在の規定通りの給付額を切り下げられることなく、逃げ切れる。だから、改革に反対する既得権者なのである。財源不足が誰の目にも明白になるのは現在の40代が受給資格を得る頃からで、その不足幅は世代が下がるにつれて拡大する一方になる。

 男性80年、女性90年の長寿を前にして不安がいや増すこの40代以降の人々は、その立場や収入によって影響も行動も異なってくる。年金は言うまでもなく、国民、厚生、共済の3種類である。このうち、自主納付である国民年金組では、保険料納付意欲がますます削がれて“脱退”が進む。高額所得者は自己防衛に走り、金融商品投資を拡大するだろう。

 総額26兆円の保険料の大多数を占める厚生年金組の保険料は給料天引きだから、財源不足で制度が空洞化しようと、逃げることはできない。ごく普通のサラリーマンは、(現行規定より減額された)給付額の割に負担の大きい(現行規定より増額された)保険料に不満を募らせつつ、消費を懸命に削って貯蓄に回すようになるだろう。

 それでも、彼らはまだいい。悲惨なのは、天引きすらされない人びとだ。中小零細企業では厚生年金保険料の負担から逃れるために、不正な支払い逃れに走ったり、正社員を強引に非正社員に切り替えてしまったりするケースが今でも少なくない。厚生年金から弾き出された社員や元社員――彼らは収入が低く、現行の基礎年金の定額保険料すら負担が重くて支払えず、年金から“排除”されていく。