じつは本質を突いていた知事の発言

 ここで改めて、川勝知事のコシヒカリ発言に至った演説の内容を押さえたい。

「今回の補選は、静岡県の東の玄関口、人口は8万強しかないところ。その市長をやっていた人物(筆者注=若林元御殿場市長を指す)か。この80万都市、遠州(同=静岡県西部)の中心・浜松が生んだ、市議会議員をやり、県議会議員をやり、私の弟分……こういう青年、どちらを選びますか。こちらは食材の数も、439ある静岡県のうち3分の2以上がある。あちらはコシヒカリしかない。だから飯だけ食って、それで農業だと思っている。こちらにはウナギがある。カキも出てくるし、シラスも出てくる。そして『三ヶ日みかん』もある。肉もある。野菜もある。タマネギもある。もちろん餃子もある。何でもある。そういうところで育んできた青年を選ぶのか。はっきりしています」

 選挙戦でよく見られる、応援の弁士が与えられた数分間という短い時間で会場を沸かせようと必死に怒鳴っている演説である。すべての句点「。」を感嘆符「!」にする方が雰囲気を正確に伝えられるはずだ。この後、浜松が静岡の経済を引っ張ってきたという話になるのだが、本稿と関連する農業関連の発言は以上になる。

 食と農の豊かさで浜松をほめそやし、対する御殿場を腐している。群衆からは、拍手や「そうだ!」という掛け声も上がっていた。補選の候補者に我が弟分を選べという部分を除けば、内容自体はその通りなのである。浜松市は後ほど述べるように、褒められてしかるべき強力な農業地帯である。農業を取材してきた身としては、農業に関する発言は正しいと感じる。

 川勝知事は、実はまともなことを言っていたのだ。早稲田大学政治経済学部の元教授で、経済学者であるだけに、農業を経済の視点から冷静に捉えていたのかもしれない。

 のちに自ら発言を撤回し、給与など440万円を返上すると表明したが、23年に返上していなかったと判明し、同年7月に県議会で不信任案が1票差で否決されたのではあるが。