「○○して」が否定の範囲に入らないケースでは、「○○して」の後に読点を打つのも有効です。

 速やかに外に出て危険な場所に立ち入らないようにしてください。
→(言い換え)速やかに外に出て危険な場所に立ち入らないようにしてください。

 次の例題を考えてみてください。

 例題:次の各文で、赤字部分は「ない」によって否定されているでしょうか? 考えてみましょう。
〈1〉 熱があるときは、安静にして無理をしない方がいいよ。
〈2〉大雨警報が発令されていますので、川の近くに行って遊ばないようにしてください。

〈1〉で意図されている解釈は、「安静にする&無理をしない」です。つまり「安静にして」は「ない」の影響範囲の外にあります。

〈2〉で意図されている解釈は、「川の近くに行かない&遊ばない」です。つまり「川の近くに行って」は「ない」の影響範囲の内側にあります。

ケンカになりやすいパターン
「○○のように△△ではない」

 その他のよくある曖昧なパターンとして、「○○のように△△ではない」というものがあります。以前、SNSに写真をアップしている人に、別の人が「あなたのように写真が上手ではない人は、どうしたらいいんでしょうね」とコメントをしていました。私はこれを読んで、この人が「あなたは写真が上手だ」と言っているのか、「写真が下手だ」と言っているのか分かりませんでした。つまり、「あなたと違って、写真が下手な人はどうしたらいいんでしょうね」という解釈と、「あなたと同じように写真が下手な人はどうしたらいいんでしょうね」という解釈の間で迷ってしまったのです。

 ここにも、「ない」の影響範囲が関係しています。「(では)ない」が「あなたのように写真が上手」全体を否定している場合は、次のようになります。この場合、「あなたは写真が上手だ」と言っていることになります。

 解釈1:あなたのように写真が上手 ではない。
→「あなたのように写真が上手だ」ということはない。(→あなたは写真が上手だ)

 これに対し、「(では)ない」が「写真が上手」だけを否定している場合は、次のようになります。この場合は、「あなたは写真が下手だ」と言っていることになります。

 解釈2:あなたのように 写真が上手ではない。
→あなたのように写真が下手だ。(→あなたは写真が下手だ)

 場合によっては、この発言をした人が解釈1を意図していたのに、言われた人が解釈2のように受け取る可能性もあります。そのような事態を避けるには、「○○のように△△ではない」という形式を使わない方が無難です。たとえば、「○○のように」のかわりに「○○と違って」を使い、「あなたと違って、写真が上手ではない人はどうしたらいいんでしょうね」と言えば、誤解を避けることができます。

書影『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)
川添 愛 著