英国統計理事会も「明らかな誤用」と
ボリス・ジョンソンに指摘

 リベートを別にしたこの2億7600万ポンドの大半も、「地域援助」「農家への支援」「大学の研究資金」といったかたちで、英国にすぐに払い戻されていた。こうした支援金は、もしEUからの払い戻しがなければ、結局は英国が「自腹で」払うことになったであろうものばかりだ。

 また、残りの一部は海外開発援助に向けられたが、それについても「GDPの0.7%に相当する金額を、毎年国際支援に充てる」と当時の英国が約束していたことを考えれば、結局は英国が支払うお金であることに変わりはなかった。

 それに、EUに支払うお金が、本当にすべて「無駄金」なのだろうかという問題もある。投票運動において、EU離脱派はEUとのあらゆる結びつきを解消すると主張していたわけではなかった。そしてその後、離脱に向けた交渉が進められるなかで、ヨーロッパ単一市場に参入するのは高くつくことが明らかになっていった。「EU圏と好条件で貿易できる」という紛れもない特権をすべて維持するために、なんらかの支払いが発生することは、離脱したところで決して避けられなかったのだ。

 じつは国民投票当時、EU非加盟国であるノルウェーがEU市場に参入するために国民1人当たり年間約106ポンド(約1万5600円)に相当する金額を支払っていることが、各種推計からすでにわかっていた。当時の英国が加盟国としてEUに支払っている金額は、ノルウェーより約21%多い程度で、国民1人当たり換算では年間約128ポンド(約1万8900円)だった。

 だが、「国民1人当たり年間22ポンド(約3300円)の費用削減」というわずかな金額をうたうよりも、「毎週3億5000万ポンド」という数字を出すほうが、離脱を推進するためにははるかに効果的だったのだ。

「3億5000万ポンド」という数字が人々の脳裏に焼きつけられるようになってからおよそ1カ月後、英国統計理事会は、「英国がEUに毎週3億5000万ポンド支払っているという訴えが、いまだ続いているのは残念である」との声明を出すという異例の措置を取り、その数字は「誤解を招くものである」と述べた。さらに、英国統計理事会は離脱派のボリス・ジョンソンに対して、「例の3億5000万ポンドの主張は、公式統計データの明らかな誤用」と公に指摘した。