両利き経営は日本企業の十八番
QRコードはカイゼンから始まった
こうしてブームとなった両利きの経営であるが、ときどき「日本企業は両利きの経営ができないからダメなのだ」という言説がきかれる。
経営コンサルタント的にいえば、「そう、日本企業はダメなんだ。だから、私に高額な報酬を支払って、両利きの経営を学びなさい」ということになるだろう。
しかし、一度立ち止まってよく考えていただきたい。
既存の技術や知識を活用しつつ、新しい技術や知識を探索したり、新しいビジネスを模索したりするというのは日本企業の得意技ではないだろうか。
たとえば筆者が専門とする生産管理・品質管理分野でよく扱われるカイゼン活動を考えてみる。カイゼン活動は、世界でカイゼン(Kaizen)という単語が通じるくらい一般化した日本発の経営技術である。
カイゼンは、普段の生産活動の中で、生産に関しての知識を蓄積し、さらにその知識に疑問を持つ機会を与えることで、生産やサービスのあり方を再考することを指す。QC七つ道具など、カイゼン活動の遂行に便利なツールも開発されている。
カイゼンは、一方面において既存の生産の知識を深化させている。しかし、その知の深化を「前提として」、新たな生産方法が探索される。そして、その結果として新車種の量産が既存の生産ラインを活用する形で安価に実現されたりする。
たとえば、拙著『イノベーションを生む「改善」』(有斐閣)において描かれるような、ロボットが行き交い、1生産ラインで5~6車種の同時生産が可能な未来の生産ライン「変種変量ライン」も、きっかけはちょっとしたカイゼン活動であった。
また、小川進『QRコードの奇跡』(東洋経済新報社)が詳細に報告しているように、世界を変えた日本発イノベーションである「QRコード」は、元はトヨタ自動車のサプライヤーであるデンソーがトヨタ生産方式で用いるカンバンを管理するために発明したもので、こちらもきっかけはカイゼン活動だった。
既存の生産活動を実行しつつ、これを効率化させ、さらに工程や製品のイノベーションを起こす。まさに両利きの経営だと思われないだろうか。