97敗を喫した楽天初代監督
田尾安志が考える弱いチームの売り

 楽天1年目は38勝97敗1分け。首位から51.5ゲーム差。

 田尾はその不成績を理由に、3年契約の1年目で解任される。それでも田尾の明るさと、チームに対する情熱からだろう。仙台のファンから解任を反対する声が高まり、ラストゲームでは最下位だというのに、選手たちから胴上げされた。絶望的な数字の中で、田尾は「プロ野球の本質が見えたような気がした」という。

「弱いチームを見て、まだプロ野球のレベルじゃないチームを1年間預かって、やってみて、ああ、こういうものなんだな、ということがね。あんな弱いチームでも、応援してくれるわけですよ。なんで応援してくれるんだろう、ってね。やっぱり、下手だけど、みんなものすごく頑張っているな、って、そういうのも売りなんだね」

 だから、落合の「冷たさ」が、気になって仕方がなかった。

 そこが、名古屋で受け入れられなかった。いや、名古屋でなくても、プロ野球というエンターテインメントの中では、ただ勝つだけでは、何かが足りないのだ。

 勝っても、お客さんが減っている。

 福留孝介は、落合政権下でのプレーを経験している。

「多分その頃は、一番脂が乗っている選手が多かったというのもあるけど、個々が自分で自分のことをすべて行えるくらいの選手が多かったから、周りがどうのこうのというのは気にしたことがなかったですね」

 福留をはじめ、荒木雅博、井端弘和、立浪和義、森野将彦、中村紀洋、谷繁元信、タイロン・ウッズ、川上憲伸、山本昌、岩瀬仁紀。

 名前を挙げていけばキリがない。記録にも、記憶にも残るそうそうたるメンバーが揃っていた。それを束ねて、力を発揮させたのは間違いなく落合の手腕でもある。

 落合政権下で、2月のキャンプは「6勤1休」のハードスケジュールだった。故障を避ける、あるいは週末の観客動員を考慮し、「3勤1休」や「4勤1休」を組み合わせての1カ月間というのがスタンダード。しかし落合の方針は、そうした要素は一切関係ない。

「シーズンに入ったら、6連戦で月曜が休みだろ?」

 だから6勤。シーズンの流れを踏まえて、スケジュールを組んでいるのだ。練習内容も半端じゃなかった。練習が終わるのは、日の長い沖縄なのに、日がとっぷり暮れた後。北谷の球場前にはショッピングモールがあり、その一角にかつて「観覧車」があったのだが、その観覧車にナイター営業用のイルミネーションが灯っても、まだ中日は練習をしていた。