農水省が通常国会に提出した食料・農業・農村基本法の改正案について、元農林水産事務次官の奥原正明氏に聞いた。“改革派”官僚で鳴らした奥原氏は、現在の農政をどう見ているのか。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
岸田政権は農政に関心も改革意欲もなし
若手農水官僚のモチベーション低下が心配だ
――食料・農業・農村基本法の改正に対して、農業法人の経営者から懸念の声が上がっています。
現行基本法は、農業を発展させるため、過去の反省を踏まえて、担い手(プロ農家)が農業生産の相当部分を担う「望ましい農業構造の確立」を目指すことを規定しており、既にプロ農家が農地の約6割を利用するところまで来ています。今必要なことは、これを加速し、プロ農家がまとまった面積を利用できるように集約化していくことです。
ところが改正案では、農地を利用してくれるなら、プロ農家と兼業農家を同等に扱うという規定を置いています。これでは構造改革にブレーキがかかります。
農協などの農業団体について、現行法は、基本法の「理念の実現に主体的に努める」という努力義務規定が置かれていましたが、改正案はこれを削除し、新たに「団体の活動は基本理念の実現に重要な役割を果たすものであることに鑑み」という現状肯定の規定を置いています。これでは農協改革にブレーキがかかります。
次ページでは、今回の基本法改正の本質を「農協など既得権者の巻き返し」と考える理由や、現役の農水省官僚たちのモチベーション低下を危惧する理由を、奥原氏に余すところなく語ってもらった。