ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
佐藤一郎のパースペクティブ

【新連載】「ムーアの法則」に迫る経済的限界
――プロセッサ動向から読む、スマートフォン市場競争の行方

佐藤一郎 [国立情報学研究所・教授]
【第1回】 2013年4月9日
著者・コラム紹介バックナンバー
previous page
2
nextpage

 言い換えると1000万台以上、販売台数が見込めるスマートフォンメーカでないと、最新プロセッサが確保できない、つまりファウンドリへの生産委託ができない時代なのです。そして、それに見合う台数のスマートフォンを出せる企業はAppleとSamsungだけです。

 もちろん、それ以外のメーカもスマートフォン用のプロセッサを確保することはできるかもしれませんが、それはプロセスが大きくなります。プロセスが大きい、つまり集積度が低いと、プロセッサの機能も制限されるし、動作速度も遅い、さらに駆動電流も大きいのでバッテリ持ちが悪いので、商品力に欠けるのです。

 ちなみに国内の携帯電話メーカの販路は日本が中心ですが、その日本では数十万台売れるスマートフォンがあれば大ヒット商品になれます。逆に言えば国内の携帯電話メーカは最新プロセスで製造したプロセッサを入手する見込みは非常に低い。国内の携帯電話メーカの今後についてはあえて書きませんが、賢明な読者ならば想像が付くはずです。

 ファウンドリに関しても、今後は企業経営を揺るがすような投資を行う必要があり、工場一つの設備投資に1兆円近くかかるとされる、28nmプロセスに対応した半導体工場を作れる企業は、Intel、TSMC、Globalfoundries、Samsungぐらいのはず。自社向け主体のIntelは例外ですが、委託生産を生業とするファウンドリ事業者も、大きな委託契約がなければ怖くて設備投資に踏み切れません。今後、10nm台のプロセスも想定されますが、一つの工場への設備投資は数兆円になる可能性もあり、チキンレース状態。数年後には明らかになるはずですが、10nm台のプロセス向け半導体工場を作れる企業はさらに絞り込まれると考えるべきでしょう。

 ご存知のように半導体業界には「ムーアの法則」と呼ばれる経験則があります。18ヵ月で半導体の集積度は二倍になるというものです。これまでもプロセスが細かくなるにつれてムーアの法則の限界説は出ていましたが、半導体業界は乗り越えてきました。ただ、今まではあくまでも技術的限界でしたが、今回は経済的限界がみえてきていることになります。

スマートフォン向けプロセッサの設計コストの増加

 スマートフォン向けプロセッサは設計・開発も費用がかかります。前述のようにスマートフォンのほとんどはARM系プロセッサを使っていますが、スマートフォンのように高機能な一方、小型化と低消費電力が求められる場合は、SoC(System on Chip)といいますが、プロセッサの半導体回路に、プロセッサ本体(コア回路)以外にさまざまな周辺回路を入れて、集積装置の数を減らします。ARMコアそのものはARM社の設計をベースにするとしても、周辺回路が多くなれば人手もかかるし、時間もかかります。

previous page
2
nextpage
IT&ビジネス
クチコミ・コメント

facebookもチェック

佐藤一郎
[国立情報学研究所・教授]

国立情報学研究所アーキテクチャ科学系教授。1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授、を経て、2006年から現職。また、総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻教授を兼任。
専門は分散システム、プログラミング言語、ネットワーク。

佐藤一郎のパースペクティブ

分散システムの研究を核としつつ、ユビキタス、ID、クラウド、ビッグデータといった進行形のテーマに対しても、国内外で精力的に発言を行っている気鋭のコンピュータ・サイエンス研究者が、社会、経済、テクノロジーの気になる動向について、日々の思索を綴る。

「佐藤一郎のパースペクティブ」

⇒バックナンバー一覧